「ブレ球」がW杯を席巻していた時代があった。
特に印象深いのは06年ドイツ大会の日本対ブラジル戦。「魔球」の名手ジュニーニョ・ベルナンブカーノが30メートル近い距離から放った一撃だ。鋭く揺れたボールをGK川口能活は触れることさえできなかった。
当時の公式球は「チーム・ガイスト」。その表面はツルツルしていた。空気抵抗が少なく、強いインパクトで放たれた無回転ボールは軌道がブレる。キーパー泣かせのボールだった。
続く10年南アフリカ大会の公式球「ジャブラニ」もブレていた。本田圭佑がデンマーク戦で見せた30メートルの距離からのシュートも衝撃的だった。無回転ボールは急激に揺れて落ちた。GKソーレンセンは触れなかった。今も伝説のFKとして記憶に新しいところだ。
しかし最近の大会では見なくなった。ブレ球どころかロングシュート自体が少なくなった。今大会はゴールラッシュ。85試合が終了時した点で249点も生まれたが、30メートル級のロングシュートによる得点はゼロ。やはりボールの特性があるのではなかろうか?
そこでスポーツ科学研究の第一人者、筑波大名誉教授でIPU・環太平洋大教授の浅井武さん(69)に話をうかがった。
今回のボールはアディダス製の「TRIONDA(トリオンダ)」。その表面はデコボコした小さなデザインが施されている。
「風洞実験によるボールの性質は、最近の中ではちょっと空気抵抗が大きい。表面に幾何学的なデコボコがあり、それはラフネスと言います。そのラフネスによってトリッキーな動きが抑えられています」
ゴルフボールの表面にあるディンプルもそうだ。その「ラフネス」はボール周りで起こる空気の渦を小さくする働きを持つ。流体のメカニズムとして、飛翔(ひしょう)体の表面では空気摩擦による渦が発生。それによって揺れが起きる。
トリオンダはロングシュート向きではなさそうだ。一方で、確かな軌道を生むという利点がある。
「ラフネスが大きいので、スピン系のボールは有効です。曲がりやすいのでカットインからコースを突くシュートは狙い目です」。そう言われるとメッシにエムバペやデンベレらは、カットインからゴールの隅を突くコントロールシュートで得点を重ねている。
加えてボールは弾みが良く、少しばかり軽めだという。だからの小さなキックモーションからのシュートは有効打となる。
ボールの特性によってゴールの形も変わる。従順な「天使のボール」がメッシ、エムバペらを後押ししている。【佐藤隆志】





