平成から令和へと元号が変わり、時代の変化を感じる出来事があった。

日本代表メンバーの選出。過去には代表に呼ばれることを最大の栄光と思い、日の丸を目指して汗を流し、技を磨いた。チームも所属選手を代表に派遣することが光栄で、快く送り出した。代表選手が何人所属しているかが、そのチームのステータスでもあった。Jリーグの創立理由として「日本代表の強化」が挙げられるほどだった。

しかし時代は変わり、代表よりクラブ事情が優先される事例が起きている。今回の南米選手権のメンバー選考。特別招待された日本は、代表招集の強制力がなく、海外クラブに所属する選手は、その選手と所属クラブの同意が必要だ。それは国際サッカー連盟(FIFA)が定めたルールなので仕方のないことだ。

しかし今回、Jリーグにも、所属選手を出し渋るクラブが現れた。実際にJクラブもFIFAルール上、断る権利はある。代表活動に協力してきた、今までの慣習を覆る現象は、日本サッカー協会にとっては大きな衝撃だ。しかも招集に否定的なのは1クラブではなく、複数存在する。

南米選手権の期間中もJリーグは実施される。主力選手を抜かれると、大きな戦力ダウンは否めない。J1残留圏内で選手層の薄いクラブは、勝ち点1は死活問題。代表に主力を送ったことが、のちに大きな衝撃として返ってくることもある。当然、日本サッカー協会はその責任は取らない。そのため、今回の南米選手権は若手主体のチーム構成を図ったが、若手の中にもクラブが出せない主力選手はいる。

さらに今回の南米選手権は、U-20(20歳以下)W杯と時期が重なるため、若手選手の振り分けにも細心の注意が必要だ。U-20W杯ならレギュラーで全試合出場できる選手が、A代表として南米選手権に選出された場合、大半の時間をベンチで過ごすこともある。

クラブと交渉を任されているのは、関塚隆技術委員長。各クラブに「レベルの高い国際大会を経験することで若手が伸びる。協力してほしい」と説得しているという。しかし、成績向上と若手育成が同時進行するプロのクラブに対して、これは落とし文句にはならない。大半の時間をベンチに座って、実力がどれだけ伸びるかは未知数だ。説得力はないし、交渉能力を疑ってしまう。

1年後は東京五輪。MF堂安、DF冨安ら主力のほとんどが海外クラブに所属している。FIFAルール上、拘束力はない。Jクラブとの交渉が難航し、決定力を欠く現体制で、海外クラブとの交渉がまとめられるか。田嶋幸三会長は「東京五輪は最強メンバーで挑む」と話しているが、現状では不安が募る。くれぐれもその心配が杞憂(きゆう)で終わることを祈る。【盧載鎭】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。96年入社。2年間の相撲担当を除き21年間サッカー担当。最近の関心事はJが展開中の「Jリーグをつかおう」企画。88年は地元ソウルで、来年は東京五輪と、人生2度も身近で五輪が開催される幸運に恵まれた。五十知命というが、いまだに座右の銘も家訓も決めきれない優柔不断な性格。2児のパパ。