ラグビーファンだけでなく、初めて競技を見た人も思ったはずだ。「南アフリカの12番、すごい…」。10月20日、W杯日本大会準々決勝。南アフリカのCTBダミアン・デアレンデは強烈な縦への突進を見せたかと思いきや、自陣ゴール前では力強く日本の攻撃を食い止めた。現在27歳。2度目のW杯で存在感が光る。

そんな男は、かつて日本でプレーした。全国の高校ラガーマンが目指す大阪・花園ラグビー場。前回のW杯が終わった15年秋、同地を本拠地とする「近鉄ライナーズ」に加入した。当時23歳。同年11月8日に来日すると、長時間のフライトにもかかわらず、翌9日には元気に練習していた。

日本の文化は驚きの連続だったという。「1回1回靴を脱ぐことにビックリだ」と笑うと「最後にもう1度、日本に帰ってきたいと思えるシーズンにしたい」と目を輝かせた。すぐにレギュラーに名を連ね、わずか3週間後にはサントリーからトップリーグ発足後初勝利。故障に悩まされ、わずか1シーズンのプレーだったが、今大会後には日本代表プロップ稲垣らが在籍するパナソニック加入が発表されている。

過去最高の8強にたどり着いた日本が、準々決勝で敗退。熱狂を余韻にしてしまうのは、まだ早い。26、27日に準決勝が行われ、11月1、2日には3位決定戦と決勝が控える。デアレンデのように、大会後もトップリーグ(TL)で見られるスター選手がいるのだ。

26日の準決勝でイングランドと戦うニュージーランド。同日に34歳の誕生日を迎えるNO8キーラン・リードは、常に厳しい局面で体を張る。大会3連覇を目指すラグビー王国の主将が、大会後には日本代表NO8姫野らが在籍するトヨタ自動車入り。27日にウェールズと準決勝を戦う南アフリカの怪物フッカー、マルコム・マークス(25)は、日本代表NO8マフィらが所属するNTTコミュニケーションズでプレーする。その他にも同様の選手がおり、W杯で“予習”しておけば、20年1月開幕のTLをさらに楽しめるはずだ。

W杯開幕前、2012年に日本人で初めて国際ラグビー殿堂入りを果たした坂田好弘氏(77)を取材する機会があった。1969年、単身でニュージーランドへ留学。世界中に友人がいる坂田氏に「W杯を楽しむ方法」を聞いた。開口一番の答えがユニークだった。

「町で外国人を見かけたら、ぜひ交流してほしいですね。英語が分からなければ、ビールを飲むジェスチャーでOK。パブもいいけれど、そこでぜひ居酒屋に連れて行ってあげてほしい。言葉が通じなくても、一緒に飲めば分かり合えるし、喜んでくれる。それがラグビー。『(次回W杯の)2023年にフランスで会おう』なんて約束ができたら、すてきですよね」

チケットがなくても、楽しむ方法は無限大。4試合を残して「ラグビーロス」になっては、もったいない。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大とラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当し、平昌五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを中心に取材。