小林陵侑(22=土屋ホーム)が、史上3人目となるジャンプ週間4戦4勝の完全制覇で総合優勝を果たした。日本勢の総合優勝は、97-98年シーズンの船木和喜(フィット)以来2人目。オリンピック(五輪)や世界選手権と同等かそれ以上とされる伝統のタイトルを22歳でつかんだ。ワールドカップ(W杯)は通算8勝目で、自身の日本勢シーズン最多記録を8に更新、同じく連勝記録も5に伸ばした。
本場、欧州ファンの喝采が心地よかった。小林陵は着地と同時に、勝利を確信した。67回目を迎える伝統のジャンプ週間で史上3人目、日本人では初の4戦4勝。「今日勝つことに集中していた。欲してもらえるものでもない。歴史を作れたことはすごくうれしい」。兄潤志郎ら仲間に肩車され、ガッツポーズを何度も繰り返した。
快挙は今季初めての逆転勝利から生まれた。1回目は135メートルの4位。2回目が真骨頂だった。不利な追い風でライバルが飛距離を落とす中、137・5メートルの非の打ちどころがない大ジャンプ。結局2位に13・8点の大差をつけた。「この逆転勝利は、僕の中でもでかい。とにかく集中していた」と会心の2回目を振り返った。
素質の塊だった。15年に土屋ホームに入社した直後、ジャンプを科学的に研究している北翔大の山本敬三教授からフォーム解析を受けた。山本教授によると「体の左右差が少ないので、空気抵抗が少なく飛距離を伸ばせる」タイプ。「クセがないジャンパー」とも続ける。足が長く柔軟性がある体に加え、着地で転倒してもケガをしない運動神経の良さ。伸びる要素が詰まっていた。
抜群の資質は所属先の選手兼監督、葛西の下で育まれ、ついに今季、開花した。ジャンプを飛ぶごとに助言を受け、意識し、調整。当初は踏み切りが早いことが多かったが、経験を積み、我慢を覚えたことで、タイミングを捉えられるようになった。葛西は「素質は高校時代からあるな、とみていた。今季、大爆発してくれた」と、愛弟子を抱きしめた。
選手のだれもがあこがれるタイトルを奪い、W杯でも総合首位を独走している。今季は船木や葛西と比較される質問も増えたが「まだ自分は五輪の金メダルを取っていないので、並べない」と冷静だ。まだ22歳。どこまで伸びるのか、どんな記録をつくるのか。将来性豊かなジャンパーが、大きな通過点を走り抜けた。
◆小林陵侑(こばやし・りょうゆう)1996年(平8)11月8日、岩手県八幡平市生まれ。5歳で兄潤志郎の影響でスキーを始める。松尾中3年の全国中学で史上2人目の複合、ジャンプの2冠。盛岡中央高3年の国体少年複合は連覇、同ジャンプ2位。W杯は15-16年シーズンから参戦し、昨季までの個人戦最高成績は6位だった。愛車はポルシェ。家族は両親と兄、姉、弟で、4きょうだい全員がジャンプ選手。174センチ、59キロ。
<ジャンプ週間とは>
◆スタート W杯発足前の1953年に始まり、今季で67回目。
◆場所 ドイツのオーベルストドルフとガルミッシュパルテンキルヘン、オーストリアのインスブルックとビショフスホーフェンの4大会8回の飛躍合計得点で総合優勝を決める。
◆人気 欧州では年末年始の風物詩として定着しており、予選を含めて10万人超の大観衆が詰めかける。
◆完全制覇 01-02年シーズンのハンナバルト(ドイツ)、17-18年シーズンのストッフ(ポーランド)、今季の小林陵の3人。達成者が長らく現れず、過去には約1億円の賞金がかけられたこともある。