車いすバスケットボール男子日本代表の古沢拓也(23=パラ神奈川SC)が、「チーム古沢」の存在を力に20年東京パラリンピックに挑む。昨年4月に在学する桐蔭横浜大に学生を中心としたプロジェクトが発足。現在は日本代表スタッフと情報を共有する6人のメンバーに学内の個人トレーニングでサポートを受けている。正確なシュートと緩急をつけたドリブルを武器とする司令塔は、仲間の思いに応えるためにも男子代表初の世界大会メダル獲得を誓う。

■朝練90分でシュート500本

古沢の個人トレーニングは静まりかえった大学体育館で行われた。「この半年ぐらいはシューティングをテーマにしています。確実性を上げるために」。講義が始まる前、午前7時から1時間半あまりで3ポイントを含めて約500本のシュートを打った。集中力を保つために扉は閉め切られる。緊張感が漂うコートでメニューをサポートし、動きを見守ったのが大学院生の絹村広誠さんをリーダーとするプロジェクトチームだった。

古沢はU-23日本代表主将、PGとして17年世界選手権でチームをベスト4に導いた。同年からトップの日本代表にも定着している。その当時は神奈川大の3年生だったが、20年東京大会を控えて競技と学業により専念できる環境を求めて昨年4月、桐蔭横浜大のスポーツ健康政策学部2年生に編入。それを契機に大学側が東京2020古沢プロジェクトをスポーツサポートセンター内に発足させることを決め、同学部の学生からメンバーを募って選考した。現在は6人がマネジメント、トレーナー、練習パートナーの役割に分かれて参加している。

古沢は現在、日本代表で週3日、所属クラブのパラ神奈川SCで週3、4日の練習に参加している。それと並行して通学しながら火、水曜日に自身の課題をクリアするために個人トレーニングを消化する。プロジェクトメンバーは日本代表スタッフとも連携して情報を共有。古沢のコンディションに応じたメニューを検討し、実践するなど日本代表のサテライトの役割も担っている。

「感謝しています。メンバーのみんなや大学の協力には、東京のメダルという結果で応えるしかない」と古沢。自分のことだけではない。プロジェクトの意義を理解した上で、あとに続く者への思いも強い。「国内では初めての試みだと思うし、僕が卒業するころには新たなパラアスリートが入学してくれればいい」。自らが成功例となることでプロジェクトの継続と発展も願っている。そのためには日本代表の主力として初の世界大会メダルを手にしなければならない。【小堀泰男】

 

◆古沢拓也(ふるさわ・たくや)1996年(平8)5月8日、横浜市生まれ。先天性の二分脊椎症だったが幼少時は日常生活に不自由はなく、小学校時代は野球少年で遊撃手。小6時に合併症の脊髄空洞症の手術を受け、車いす生活になった。中学時代にはテニスでもジュニア代表に選ばれたがバスケットを選択し、高1でU-23代表に選出。同世界選手権に2度出場し、17年には主将として4強入りして大会ベスト5に選ばれた。同年から日本代表に定着し、18年世界選手権出場。持ち点3.0。好物は抹茶系スイーツ。家族は両親と姉。

◆車いすバスケットボール ボールを持って3回以上プッシュ(車いすをこぐ)するとトラベリングの反則になるが、ダブルドリブルはなくプッシュ2回以内なら何度でもドリブルできる。選手には障害の程度によって1.0から4.5まで0.5点刻みで持ち点があり、プレーする選手5人の持ち点合計が14.0以内でなければならない。それ以外は健常者のルールとほぼ同じ。男子日本代表はこれまでパラリンピック5大会、世界選手権5大会に出場しているが7位が最高でメダル獲得はない。

◆桐蔭横浜大 1988年の創立の私立大。法学部、医用工学部、スポーツ健康政策学部の3学部に計6学科。大学院には法務研究科(法科大学院)、法学研究科、工学研究科、スポーツ科学研究科がある。スポーツサポートセンターにはトレーナー、心理、栄養などスポーツの専門家を目指す学生が在籍し、大学だけでなく桐蔭学園中・高等部の部活動でも現場経験を積む。佐藤宣践学長。横浜市青葉区。

 

<桐蔭横浜大メンバー 一方的じゃない学びながら支援>

プロジェクトの学生リーダーとしてチーム全体を束ねるのが大学院で障がい者スポーツの競技環境を研究する絹村さんだ。卒業後はスポーツ関連の仕事を希望しており「タク(古沢)を通じて代表スタッフの方とコミュニケーションを取るなど僕たちも学ぶことがたくさんある。一方的なサポートではなくウィンウィンの関係なんです」。メディカルトレーナーを目指して米国留学経験もある兵頭さんも「バスケットにも障がい者スポーツにも知識がなかっただけに勉強になります」と言葉を合わせる。

 スポーツを軸に社会に貢献できる人材育成を目指すスポーツ健康政策学部から選ばれたメンバーは、学びながら古沢をバックアップしている。男子バスケット部主将で練習パートナーの鍬田さんは「メダル取ることはもちろん、個人としても世界で活躍できる選手に」とエールを送った。