「投高打低」にも質の違い…MLB打者「フライボール革命」で対抗中/調査報道〈6〉

ロッテ佐々木朗希の完全試合に始まり、ソフトバンク東浜巨、DeNA今永昇太、オリックス山本由伸、日本ハムのコディ・ポンセがノーヒットノーランを達成した2022年。長いプロ野球の歴史を振り返っても、1シーズンで5人のノーヒットノーラン(完全試合を含む)達成者が出たのは1940年(昭15)以来。最多タイの人数になりました。快挙5試合の平均奪三振数は9・8個で、四死球数は1・2個。歴代の平均数は奪三振数が6・3個で四死球数が2・4個。無安打試合の記録だけを比べても上回っています。 達成者4人も43年の1度しかなく、過去2度の記録は、1936年にプロ野球が誕生してから10年未満のもの。投手が圧倒的有利と言われた時代でした。今季が「投高打低」と言われるのもうなずけます。しかし…本当に「投高打低」なのか? 本当なら、何が原因なのか? ベテラン記者がデータを読み解き、さまざまな角度からアプローチしていきます。

プロ野球

MLB打者「本塁打数&OPS」キープ

近年、最新機器の導入で打者の打撃理論は大きく変わってきている。

野球に携わる関係者はもちろん、一般の野球ファンでも「フライボール革命」という言葉を一度は聞いたことだろう。

「フライボール革命」は、最新機器で蓄積されたデータを基に、これまで曖昧だった野球理論を明確にした結果、生まれたもの。

簡単に言うと「得点力を上げるにはどういう打撃がいいのか?」という疑問に対し「ゴロを打つよりフライを打てるようにした方がいい」というもの。膨大なデータの統計をとった確率論であり、メジャーを中心に広まっていった。 

前章では最新機器を使ったメリットは、投手より打者の方が少ないとした。

日本ほどではないが、メジャーでも同じような傾向はある。それでもメジャーでは本塁打数やOPS(出塁率+長打率)は日本ほど下降してはいない

「ホークアイ」がメジャーの全球団に導入された15年からの本塁打数とOPSは。


試合数本塁打数OPS
15年4858試合4909本0・721
16年4856試合5610本0・739
17年4860試合6105本0・750
18年4862試合5585本0・728
19年4858試合6776本0・758
20年1796試合2304本0・740
21年4858試合5944本0・728
22年4860試合5215本0・706

新型コロナの影響で試合数が激減した20年を除外すると、本塁打数は15年が4000本台で、それ以降は5000本台から6000本台を記録している。OPSも常に0・7台の高いレベルをキープしている。

上原氏「1番から9番まで一発ある」

今度は投手の防御率、与四球率、奪三振率をみてみよう。


防御率与四球率奪三振率
15年3・952・97・8
16年4・183・18・1
17年4・353・38・3
18年4・143・28・5
19年4・493・38・9
20年4・443・59・1
21年4・263・38・9
22年3・963・18・5

与四球率はほぼ同じで、奪三振率はやや上がっている傾向といっていい。

この傾向を日本球界の「投打」の傾向と照らし合わせてみる。

日本球界の歴史の中で200本以上、本塁打が増えたシーズンは8度ある。本塁打が急増したシーズンは、すべての年で与四球率が増えている(奪三振率は8シーズン中5度は上がっている)。 

その傾向をメジャーの近年の成績と照らし合わせると、打者の飛距離が伸びても、投手の制球力は落ちていないということになる。それでいて奪三振率がやや上がっているのだから「投打」のレベルがともに上がっているといえる。

メジャーで成功をした上原浩治氏(日刊スポーツ評論家)に、近年のメジャーの「投打」について聞いてみた。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。