アマでも散見…「サイン盗み」でバッティングレベルは上がらない/調査報道〈9〉

ロッテ佐々木朗希の完全試合に始まり、ソフトバンク東浜巨、DeNA今永昇太、オリックス山本由伸、日本ハムのコディ・ポンセがノーヒットノーランを達成した2022年。長いプロ野球の歴史を振り返っても、1シーズンで5人のノーヒットノーラン(完全試合を含む)達成者が出たのは1940年(昭15)以来。最多タイの人数になりました。快挙5試合の平均奪三振数は9・8個で、四死球数は1・2個。歴代の平均数は奪三振数が6・3個で四死球数が2・4個。無安打試合の記録だけを比べても上回っています。 達成者4人も43年の1度しかなく、過去2度の記録は、1936年にプロ野球が誕生してから10年未満のもの。投手が圧倒的有利と言われた時代でした。今季が「投高打低」と言われるのもうなずけます。しかし…本当に「投高打低」なのか? 本当なら、何が原因なのか? ベテラン記者がデータを読み解き、さまざまな角度からアプローチしていきます。

プロ野球

昔は参考にならなかったけど…

野球という競技は、投手が投げてスタートする。主導権を持つのは投手であり、打者は受け身の立場。

そういう性質上、まず投手のレベルが向上し、それに対応するように打者のレベルも上がっていく。

しかし、日本球界の現状は、打者のレベルだけが取り残されるように上がっていない。一部の突出した打者だけが、レベルを上げている状況と言っていいだろう。

最新機器を使った練習法や活用法に関して、日本球界の打撃論は正しく追い掛けられていないと言ったら言い過ぎだろうか? 

最近の甲子園大会を見ても、捕手の構える位置を打者がのぞいたり、サイン盗みが横行している。

日刊スポーツ評論家・和田一浩氏 僕らの時代、当たり前のように二塁にランナーが出たら「リーリー」とか言いながら両手でキャッチャーの構えた位置をバッターに伝えていましたね(笑い)。

でもサインを解読する知識なんてなかったし、コースだけしか伝えられなかった。ピッチャーのレベルが今と違って低いから、狙ったところへ投げられない。役に立つのはランナーが二塁にいて、コントロールのいいピッチャーの時だけ。あまり参考にならなかったですね。

それにキャッチャーの位置を見るバッターも今ほど多くなかったような気がします。同じチームと何度も対戦するプロでそんなことはやりにくい。見てるのがバレたら野次られますからね。上のレベルで野球をしたいなら、絶対にやらない方がいい。

対策案「捕手を見た瞬間にアウト」

現代の中学野球事情は学校での部活動よりも、硬式などのクラブチームが盛んで「勝利至上主義」が進んでいる。

二塁走者だけでなく、ベースコーチが捕手のサインを解読して打者に伝えたり、さまざまなケースがある。そして指導者によってはキャッチャーの位置を打席から見るように指示するチームもある。

そうやって教育された打者は、結果を出すために指導者から指示されなくても選手同士でサインを盗むようになる。

すべてのチームがやっているとは言わないが、中学野球から実践した選手は高校でもやるし、高校ではより高度な「サイン盗み」が横行するようになった。

和田一浩氏 バッターのレベルが上がらない理由のひとつに、そういうのが挙げられるでしょうね。外角を待っていたら内角が打てない。真っすぐを待っていたら変化球が打てない。それをどうしたら打てるようになるかを考えてバッティング練習する。そうやって技術は上がっていくんですが、そこが抜けたらレベルは上がらない。

サイン盗みを見分けるのは難しいけど、バッターがキャッチャーを見たら、その瞬間に球審がアウトにするとかした方がいい。そうしたら疑わしいジェスチャーもしなくなるんじゃないですか。

プロでやっている時も二塁にいる時なんか、紛らわしい動きをしないように気をつけてました。

現在のプロ野球でも「サイン盗み」を疑われるようなケースはある。

プロを中心とした野球報道が専門。取材歴は30年を超える。現在は主に評論家と向き合う遊軍。
投球や打撃のフォームを分析する企画「解体新書」の構成担当を務める。