【ヤマコウが聞く!】

 ◆9R:予選 

 G2格付けとなる「サマーナイトフェスティバル」。ガールズの選手も参加して、検車場はいつも以上に華やかなムードに包まれた。その中で、穏やかな表情で1つ1つ丁寧に話してくれたのは山田英明。5月の京王閣日本選手権(ダービー)、6月の岸和田高松宮記念杯で決勝入りして、タイトルが形となって見えてきた。ダービー、宮記念杯と決勝を経験して何を得たのだろうか。

 山田 がっつくと逃げて行くのがタイトルだと思いました。ダービーの決勝は、逃げる深谷知広の3番手狙いのレースでしたが、平原(康多)が気になって、飛びつく時に上に上がりました。そうでないと自分のダッシュでは深谷のカマシに飛び付けないし、3番手に付いてきた選手にも入られると思ったから。ところが、三谷竜生に内をすくわれて3番手を許してしまった。そのまま追い込んで三谷が優勝。結果は駄目でしたが、何もできず終わりたくはなかったので、やるだけのことはやったつもりです。

 打鐘過ぎの2センターで3番手に飛び付こうとして失敗した英明は、高松宮記念杯の決勝でどんなことを考えたのだろう。

 山田 あのレースは、関東勢(吉田拓矢-平原-武田豊樹)が先行するところを、近畿勢(稲垣裕之-村上義弘)が巻き返すはず。そこに勝機が生まれると思っていました。とっさに内に行ったのは最初から考えていたのではなく、内が空いたから突っ込んだというのが正しい表現だと思います。稲垣さんが巻き返しに行かなかったら、一列棒状でも4番手からまくるつもりでした。行けなくても(井上)昌己さんにはチャンスが生まれると思って。

 しかし、最終2角で吉田の番手を奪った英明はいったん仕掛けをちゅうちょした。そこを新田祐大にまくられジ・エンド。

 山田 あそこで休まずに仕掛けるべきでした。でも、こうやってレースの立ち回りを覚えていきます。

 私は、英明が自力一本で深谷や新田にかなうとは思っていないし、自身もそこは自覚している。だからこそ総合力で勝負するしかない。いかに自分の土俵で勝負できるかが鍵となる。

 山田 今、最強の自在と言われているのが平原。あのようにレースを運んで行きたいと思うし、追い込み選手からは「しっかりと中団を回ってくれた方が、無理して先行するよりありがたい」と言われハッとしました。若い時の自分は「先行しなきゃ」と常々思ってレースに取り組んでいました。F1で優勝して自信満々でG1に挑んでも簡単に負けて力の差も感じていました。

 今から3、4年前、自力に限界を感じた英明は師匠の中野龍浩さん(53期・引退)に戦法の相談をした。返ってきた答えは「自在でいいんじゃないか」。そこから悩みが消え、今のさばきを視野に入れて戦うスタイルにたどり着いた。

 山田 9月には地元武雄の共同通信社杯が控えていますが、やることやってチャンスをつかめればいいと思っています。競輪に答えはないし難しい。

 そう話す英明は、三国志や孫子の兵法をよく読んでいる。「競輪に置き換えるとよく分かるんです」。弱者ならではの強みを生かしてタイトル奪取にまい進する。

(日刊スポーツ評論家・山口幸二)