サッカー賑わせているクラブの借金問題。特にメガクラブの一つであるバルセロナは売上と同じぐらいの規模の負債が隠されていたとなっており、もはやクラブが破産してもおかしくない状況です。同時に他の国でもさまざまな問題が起きており、イングランドではチェルシーのクラブ・オーナーがロシア人であったことから今回の紛争の影響でクラブを手放さざるを得ない状況となりました。結果的にオーナーチェンジという形で収まっておりますが、今回はクラブの運営形態などについて見てみたいと思います。

ヨーロッパでは投資家と呼ばれる富豪がクラブを売買することが行われており、その動きは年々増加していると言われています。有名どころでは、2003年にロシアの石油王ロマン・アブラモビッチ氏によるチェルシー買収がなされ、その金額は当時の価格で1億4000万ポンド(約259億円)とも言われました。マンチェスター・ユナイテッドは2005年に米国人実業家マルコム・グレイザー氏によって買収され、こちらの金額は当時7億9000万ポンド(約1462億円)とも報じられました。そのほかにもリバプールやアーセナルもアメリカの会社・資産家に買収されるなどしております。

そのような中で問題が起きたチェルシーはリーグや政府の承認の元、短期間でクラブのオーナーチェンジを行いました。特殊なケースであったとはいえ、非常に短期間で買収金額にして52.5億ドル(約7553億円)というメガ・ディールが決まったことには非常に驚きました。同時期にお金に困っていたバルセロナですが、本当はチェルシーのように投資家にクラブを売却して立て直すという策もあったのではという声も上がりましたが、実際にはそれは行われることはありません。運営形態の違いからそういったことができない仕組みになっていることが鍵になると考えます。

バルセロナはソシオと呼ばれる非営利団体制度を古くから保持しており、通常のクラブ運営形態とは少し異なる形です。ソシオとは英語で言う「ソサエティ」を意味し、社会または個人のグループの意味を持ちます。簡単にいうとファンクラブのようなものなのですが通常のファンクラブとも異なります。ソシオ会員の会費がバルセロナの運営費に当てられ(オーナー企業や経営者は存在しない)、このソシオ会員がクラブの運営を行うという特徴があります。クラブに対して対等に意見を言うことができたり、クラブの総会にも参加できる権利があったりするなど、株式会社の株主のような存在に近い形になります。つまりこのソシオ会員の意思を差し置いて一部のクラブ経営陣だけの判断でクラブ運営を行うことは実際のところできないということになります。

一方チェルシー含めたプレミアリーグを中心としたクラブの大半はファンクラブとスポンサー、そしてクラブ運営サイドにはラインが敷かれており、運営形態がはっきりしています。はっきりしているが故にクラブのオーナーチェンジなどもわかりやすい工程で行うことができる特徴があります。こういった背景を考えると、クラブの主導権の保持者の明確化という部分が古くからのシステムによって現代社会に適していないという見方があってもおかしくはありません。レアル・マドリードもソシオ・システムを敷いてきました。しかしながら現在はそのシステムを実質廃止しており、メンバーも募集していないどころか、ファンクラブの中でも特殊なファンクラブというような位置付けになっており、実質は現会長が全て仕切っております。

いかに形を変えて新しい世の中の流れにフィットさせていくのか。その中で自分達のスタイルを作っていくのか、現代社会で求められている“フレキシビリティ“がもしかしたら今後のフットボール界を支えていくのかもしれません。

ドイツのように特殊ケースを除きプライベート企業や投資家がクラブを買収・支配することを禁じるのか、それともオープン化を目指すのか、この辺りが今後のフットボール界の発展の鍵となる気がします。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」