日本代表の森保一監督の「気配り」が注目されている。選手に対するものはもちろん、スタッフやサポーター、スポンサーにまで。確かに、代表躍進の陰には森保監督の性格もある。

選手時代から「気配り」は並外れていた。ポジションは「ボランチ」。当時は言葉が一般的ではなく、日本リーグ時代はデスクから記事に「ボランチ使用禁止令」が出たほど。プレースタイルを振り返っても「守備的MF」の方が近かった。

92年に就任した日本代表のオフト監督は、前任の横山謙三監督時代の3-5-2から4-4-2に変更。日本は長く4-3-3だったから、代表が4-4-2を採用したのは初だった。

中盤はダイヤモンド型。左にラモス瑠偉、右に吉田光範、トップ下に福田正博を置き、守備的な位置に森保が入った。ボックス型の時は吉田が下がって森保と並び、ラモスと福田がFWの後方で攻撃を作った。

当時は選手層も薄く、どこでもこなす北沢豪を加えたほぼ5人で回した。中でもオフト監督に「ワールドクラスになるのに足りないのはサイズだけ」と信頼されていた森保は、代表に欠かせない存在だった。

相手に気を配り、味方に気を配り、戦況に気を配りながらプレーした。抜群の読みでボールを奪うと、中盤に配球した。自らドリブルで攻め上がったり、派手なスルーパスを出すこともない。常に周囲に気を配って、淡々とプレーした。

実際にチームを動かしているようにも見えたが、話を聞くと「ラモスさんに聞いてください」「(柱谷)哲さんにお願いします」。プロ化前後で個性的な選手が多い中、異質だった。

それが、監督として成功した一因だろう。決して自分が前にでることはせず、選手に目を配り、気配りをする。言葉は悪いが、巧みに操縦もする。圧倒的なカリスマ性でチームを率いるのもいいが、後方からの支援が今の時代らしい。

野球では「監督向きは捕手」と言われる。「投手は不向き」とも。もちろん例外はいくらでもあるが、サッカーも同じなのだ。

今大会、ベスト8に残った監督は、いずれもMFかDF出身。FWやGKはいない。MFも攻撃的な選手ではなく、ボランチなど守備的な選手。出場32カ国を見ても同じで、アタッカーと言えるのはセルビア代表のストイコビッチ監督やオーストラリア代表のアーノルド監督ら数人だ。

フランスのデシャン監督は右のMFが主戦場だったが、全体を気遣いながらジダンにパスを出していた印象が強い。クロアチアのダリッチ監督もボランチ。森保監督同様に「気配り」ができるのだと思う。

岡田武史氏も現役時代は読みと判断力で勝負するセンターバック。もちろん、選手時代攻撃的なポジションの西野朗氏のような監督もいるし、FWやGK出身の名監督も多いが、性格的にはボランチやセンターDFの方が監督向きだ。

W杯も大詰め。監督の采配とともに、そのバックボーンを知れば楽しい。ベスト8監督のうち選手としてW杯出場経験があるのは優勝しているフランスのデシャン監督、イングランドのサウスゲート監督、アルゼンチンのスカロニ監督の3人。半分の4人は代表経験もない。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

22年11月21日、記者会見するフランス代表のデシャン監督(ロイター)
22年11月21日、記者会見するフランス代表のデシャン監督(ロイター)
クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督(2022年11月25日撮影)
クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督(2022年11月25日撮影)
【イラスト】W杯決勝トーナメント組み合わせ
【イラスト】W杯決勝トーナメント組み合わせ