子どもたちの、子どもたちによる、子どもたちのためのサッカー大会がある。

神奈川県伊勢原市を拠点にする一般社団法人、伊勢原FCフォレスト(一場哲宏代表)が主催する「FOREST SDGs CUP(通称・フォレストカップ)」。小学生が大会運営すべてを担うという珍しい大会だ。例年12月から2月にかけ、3~6年生の各学年ごとに1日大会が開かれている。今回が3回目。1月下旬、伊勢原市のスポーツ広場で行われた4年生大会(6チーム参加)に足を運び、その様子を見つめた。

ハーフタイムに「合同ミーティング」が行われる
ハーフタイムに「合同ミーティング」が行われる

■対戦チームで合同ミーティング

この日は伊勢原FCフォレストの5年生と3年生がサポート担当として、会場設営に始まり、開会式、審判、記録、閉会式の表彰までこなした。各チームの指導者、保護者はグラウンドの外から静かに見守るのみ。当然、各ベンチには子どもしかいない。メンバー交代からすべて自分たちの判断で行っている。グラウンドに響く声も子どもの声しかない。

大会の大きな見どころが「合同ミーティング」だ。前半が終了すると、両チームの選手がセンターサークルに沿って円をつくり、審判を司会役とし、互いに良かった点、改善したい点を話し合うというもの。

次々と子どもたちの手が挙がり、さまざまな意見が飛び交う。「相手はドリブルが上手だった」「みんなしっかりとボールを追っているのが良かった」。ポジティブな意見ばかりだった。最後に審判が「これを後半に生かして頑張りましょう」と声をかけると、全員が「オッケーです!」と体全体でOKポーズを取りながら、唱和する。ほほ笑ましい光景だった。

子どもが審判する中、試合が進む
子どもが審判する中、試合が進む

5年生の武井蓮君に話を聞いた。「1試合ごとに、みんなで役割を回しながらやっています。特に審判が難しいです。ゴールが決まったのか、ハンドしていないかとか、きわどいシーンが多くて忙しいです」。自分たちで運営することには「こういう経験は将来に役立つと思います。最近は学校でもSDGs(持続可能な開発目標)という言葉が出てきます。フォレストでやっていることを大事にしたいです」。将来の夢は? とたずねると「社会貢献のできるサッカー選手です」と目を輝かせた。

間伐材でつくられた表彰盾
間伐材でつくられた表彰盾

■間伐材を使用した木造スタジアム

このサッカーチームは「フォレスト」という名前が示す通り、伊勢原という自然豊かな土地を拠点に、森林資源の有効活用や、未来につながるまちづくりをテーマに置いている。自治体に企業や森林組合とも連携する個性あふれるクラブだ。豊かな森を保つため、太陽の日差しが行き届くように木を間引く必要がある。その間伐材を使い、伊勢原に木造スタジアムを建設するという構想を持っている。全国の木が使われた東京オリンピックのメイン会場、国立競技場を手掛けた日本を代表する建築家の隈研吾氏にも会い、実現に向けて背中を押されたという。

地域色を打ち出す大会とあって、試合会場では地元木材を使った玩具「大山こま」を回す子どもたちの姿もあった。試合をしていない子どもたちが集まり、誰が一番長く回せるかを競い合い、優勝者は閉会式で表彰までされた。しかも各表彰章の盾は、どれも間伐材が使用された温かみのあるものばかり。サッカーを通して、さまざまなことを知る工夫がなされていた。

伊勢原の郷土玩具「大山こま」を楽しむ様子
伊勢原の郷土玩具「大山こま」を楽しむ様子

■自分で考え行動できる人づくり

一場代表は終始、にこやかに大会を見守った。日体大の学生時代からドイツのケルン体育大学でコーチングを学び、さまざまな活動を通して指導観を磨き上げてきた育成のスペシャリストだ。4年生大会を見届けると「審判でミスジャッジがあったり、うまくいかないこともあったけど、それも含めて良かったなと思います」。失敗から学ぶことは多い、うまくいかないことが次への成長の糧となる。そんな言葉の含みが見て取れた。

「子どもたちが自分で考えて行動できるということで、サッカーのプレーヤーだけでなく、運営などいろんな立場を経験することで、人間の幅も広がるし、選手としての幅も広がる。自分で考えて行動できる人間を育成するというのが狙いでフォレストカップを開催しています」

筆者もかつて少年サッカーには深く関わった。当時を振り返れば、指導者が前に出すぎるがあまり、子どもの主体性を奪うことが多かったように思う。ピッチに響くのは大人のコーチングの声ばかりだった。そんなことを思い出しながら、一場代表の話に聞き入った。

閉会式の様子
閉会式の様子

「一番にサッカーを通して子どもたちのどういったところを育てたいのか? みたいなところだと思っています。もちろん子どもたちは目の前の勝ち負けにこだわるのは当然だし、それはいいんです。ただコーチだったり、お父さん、お母さんたちは、子どもたちの10年後、20年後の将来のことをイメージしながら、そこから逆算して今どんな力があったらいいんだろうか?と。サッカーを通して状況を見ながら、自分で『今こうしなきゃ』『こうする時だ』というのを考え、アクションを起こせることが、本当に大事だなと思っています。それに賛同して集まってくれるのはうれしいですね」

快晴の下、未来の社会を創造する種まきに触れた一日。子どもが主役-。その言葉の意味をあらためて、強くかみしめた。【佐藤隆志】

大会終了後、参加者で記念撮影
大会終了後、参加者で記念撮影