32年前、初めてW杯を開催した米国は「サッカー不毛の地」と呼ばれていた。

アメリカンフットボール(NFL)バスケットボール(NBA)野球(MLB)アイスホッケー(NHL)の4大スポーツが絶大な人気を誇る中、サッカーは当時プロリーグさえなかった。

その94年大会は「Making Soccer History」とのスローガンが掲げられた。

不毛の地にサッカー文化を根付かせる、ここから歴史が始まるという願いを込めてのものだった。

米国代表は「ボラ・マジック」と呼ばれた名将ボラ・ミルチノビッチ監督が率いた。主将のGKトニー・メオラは「協会登録」の無所属だった。長髪に赤いアゴひげが目立ったDFアレクシー・ララスは、ロックミュージシャンという顔も持っていた。

そのララスは言った。

「サッカーと音楽のどちらを取るか? と言われたら、サッカーは生涯できない。だけどギターは一生の友だ」

どこか寄せ集め感は否めなかった。

ただチームは前評判の高かったコロンビアを破るなど下馬評を覆し、決勝トーナメントに進出。歴史への一歩はここから始まった。

96年にプロの「メジャーリーグサッカー(MLS)」が創設された。

リーグ機構と各クラブを単一体とする「シングルエンティティ」という運営手法を採り、財務状況を一元管理した。1970年代にペレやベッケンバウアーらが参加した北米サッカーリーグの失敗からだった。

組織の土台を徹底的に固めたところで、次は魅力ある選手を集めた。07年のベッカム加入に端を発し、今やメッシもいる。

チーム数も創設時の10から30にまで拡大。収益性も高まり、世界でも飛躍的な成長を遂げたリーグとなっている。

最近公表されたメッシの26年報酬額は2833万3333ドル(約44億7700万円)。堂々と5大スポーツの1つとなった。

北米に根付いたサッカー文化。それはMLSの成長だけを指すものではない。

サッカーの魅力を知り、育成年代の競技人口が爆発的に増えたことだ。米リサーチ会社によると、6~17歳世代の競技人口は23年に800万人を超え「野球を12%上回った」としている。

この日の米国開幕戦で1アシストと活躍したのは、DFアレックス・フリーマン。その父はNFLのスター選手でスーパーボウルも制しているアントニオ・フリーマンだ。

NBAのレジェンド、デニス・ロッドマンの娘トリニティ・ロッドマンは24年パリ五輪の女子サッカーで世界一に輝いた。

もう説明は不要だろう。撒いた種は花を開かせた。【佐藤隆志】

12日、パラグアイ戦でプレーする米国のアレックス・フリーマン(AP)
12日、パラグアイ戦でプレーする米国のアレックス・フリーマン(AP)