内田篤人さんは最後まで言葉の豊かな人だった。

新型コロナウイルスの影響で、オンラインで行われた引退会見。質問に対する受け答えは簡潔で的確、それでいて印象的な言葉が多かった。

引退の感想は「正直、やっと終われるな」。指導者には興味を示しつつも「(監督契約の)サインをしたら、クビになるカウントダウン。二度とこのチームには戻ってこられないんだろうな」。海外と日本の差は「広がったと思っています。違う競技だなと思うくらい」と素直に答えた。

ユーモアも忘れなかった。静岡から質問した記者の音声が乱れると「静岡やっぱり距離あるな。Wi-Fi借りて、強いやつ」。今後についての質問には「YouTuberにはならないですね、長友さんはやっていますけど」。事前に引退報告をした人、しなかった人のくだりでは「(天然キャラの)永木亮太には、ビックリさせてやろうと思って言いませんでした」とオチをつけた。

個人的にグッと来たのは、膝に関する質問の答えだ。何度も負傷して手術した右膝に何と声を掛けたいか聞かれると、「よく頑張ったんじゃないかな。ほぼつぶれる覚悟でワールドカップ(W杯)や欧州CLを戦ってきたし、自分が選択したことだし、本当にいろんな人に治して強くしてもらった膝なので、良い思い出がいっぱいです」と答えた。「もっと膝が強ければ」などの恨み節でなく、周囲への感謝を込めた言葉を選んだ。場面に応じた緩急の使い分けは圧巻だった。

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「引退したら書いていいよ」。番記者に囲まれてリップサービスを込めた毒舌を吐くとき、内田さんは決まってそう言った。内容は取るに足りないことから、誰もが思っていながら口にできないこと、はたまた当を得た提言までさまざま。内田さんの痛快な物言いを買ってか、5月から始まったラジオ配信アプリ「stand.fm」鹿島オフィシャルチャンネルでは、初回放送が「バッサリいきます!内田篤人のチームメート一言斬り!」(全3回)だった。ピッチ内外で気の利くMF土居は「助さん」。鹿島一筋22年目のGK曽ケ端は「鹿嶋市長」。聞きながら、笑わずにはいられなかった。

そんな内田さんの姿に思い出した言葉がある。昨年3月のことだ。「俺なんてもう動けないからさ、思っていたこととか、逆に言いやすくて言っちゃうんだよね、最近」。15年6月の右膝手術から復帰以降、年単位のブランクも影響して100%のパフォーマンスは発揮できずにいた。それでも経験豊富なベテランとして、時には主将として、チーム全体への意見を求められるようになった。キャリア晩年の内田さんは、言葉を巧みに操ることでより一層存在感を増していった。

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引退会見で内田さんは、記者の質問がなくなるまで話し続けると、最後にこう締めくくった。

「本来ならみなさんの顔を見て、スタジアムも多くの人に見守られながら終わりたいのもあったけれど、こういう状況なので、メディアのみなさんに関しては距離感は難しかったかと。これからは好き放題言えるので、取材をしに来てもらえれば、裏表なく、炎上覚悟で言えることもあります。是非その時は、一緒に、サッカー好きな方多いと思うので、語り合えればと思います。

ファン、サポーターに関して言えば、たくさんの人に支えてもらってプレーすることができました。これからは皆さんと同じように応援する立場になるので、席が隣だったらあいさつしてください。以上です」

飾らず、ありのまま。プレーだけでなく、最後まで言葉でも魅了し続けた人だった。【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

8月23日、G大阪戦後の内田篤人さん
8月23日、G大阪戦後の内田篤人さん