前橋育英(群馬)の決勝弾は高沢の今大会初ゴールだった。前半30分、ロングパスをペナルティーエリア内でFW飯島が受け、落としたところに高沢が走り込んだ。「コースが見えていた」。右足ダイレクトで合わせたシュートはゴール右隅へ。佐野日大(栃木)の堅守をこじあけた。

 どん底を見た。昨夏の県総体でまさかの初戦敗退。指揮官からは「史上最悪の世代」と叱咤(しった)された。県総体を終えた夜、高沢は泣きながら寮から父正幸さんに電話した。「どうしたらいいのか分からない」。駆け付けた正幸さんの車の助手席で、悔し涙が止まらなかった。

 はっとした。運転席に座る父の目も真っ赤だった。小1でサッカーを始めてから、いつも正幸さんが練習相手。中学校にサッカー部がなく、車で1時間かかる前橋FCの練習場まで週4回の送迎をしてくれたのは父だった。自分だけの無念でないことに気がついた。「得意なシュートを伸ばそう」。インパクトにこだわり、毎日、全体練習と夕食の間の約30分はひたすら蹴った。この日のゴールはとっさにインサイドでやわらかく当てた。「父からも点を取れ、取れと言われていたので」。父への感謝をゴールで表現した。

 2年前に準優勝した強豪は今回、県予選で1次リーグからの戦いを強いられた。「つらい思いをした育英だからこそ、やれる」と高沢。「いい風が吹くように」とつけられた颯の名のごとく、決勝でも育英の追い風になる。【岡崎悠利】

 ◆高沢颯(たかざわ・はやて)1998年(平10)8月10日、群馬県桐生市生まれ。ポジションはMF、FW。小1からリベルティ大間々でサッカーを始める。黒保根中では前橋FCでプレー。新潟医療福祉大に進学予定。好きな選手はウルグアイ代表FWスアレス。利き足は右。家族は両親と兄、妹。170センチ、68キロ。