泣き虫エースが去年の雪辱を果たした。青森山田MF高橋壱晟(いっせい、3年)が前半41分に勝ち越し弾を決め、東海大仰星(大阪)に2-1で勝利した。前回大会準決勝は、後半ロスタイムに自らのミスで敗退して号泣。悔しさをバネに成長し、昨年を超えた。J2千葉入りが内定している攻撃の要は4戦連発で得点ランキング1位タイに浮上した。明日9日、前橋育英(群馬)との決勝は、ともに県勢初優勝をかけて対戦する。

 前半41分、ゴール前の混戦で高橋の視界は澄んでいた。「味方がシュートを打ったらこぼれ球に反応しようとしていた」。GKがはじいたボールへ走り込み、右足でねじ込んだ。「ロングスローからの形は練習していたので狙い通りでした」と勝ち越し弾に笑みがこぼれた。

 忘れられない悔しさがある。昨年の準決勝。後半ロスタイムにCKからの折り返しを押し込まれて、敗れた。「あの時、自分がラインを上げていればオフサイド。自分のせいで負けた」と周囲が心配するほどピッチで泣きはらした。失点シーンが「スローモーションのようになって」頭にこびりついた。

 節目を涙でぬらしてきた。青森山田中3年の全国大会は、優勝候補だったが2回戦敗退。主将の責任を感じ、涙が止まらなかった。「1つ下の後輩から3連覇。自分の代だけ優勝していないんです」。卒業後に後輩の優勝の知らせを聞いても素直に喜べなかった。母暁野(あきの)さん(44)も「小学生のころに所属した青森FCでも負けたら泣いていた」と話すほど泣き虫だった。

 心を変えた。昨年の敗戦は、焦りから練習通りのことができなかったと反省した。「練習量も意識も足りない」と午前5時から自主練習。「絶対に埼スタに戻るんだと必死にやった」。掲げたテーマは「いつも通り」。大舞台でも平常心を保てば結果はついてくると自分を信じ込ませた。

 背番号10は鹿島MF柴崎も背負ったナンバー。黒田監督は「高橋は自分が決めて勝利に導くという強い気持ちが表に出てきている」と心の成長を評価する。高橋は「得点王を狙える位置にいるので狙いたい」と言い切る。泣き虫はエースになった。「去年は号泣でしたね。今年は優勝して泣きます」。歓喜の涙へ、あと1勝だ。【島根純】

 ◆高橋壱晟(たかはし・いっせい)1998年(平10)4月20日、青森市生まれ。造道小時代は青森FCでプレーし、青森山田中3年では、U-15日本代表候補に選出。今年はU-19日本代表に選出された。昨年の選手権は4ゴールで得点ランク2位。50メートル走は6秒8。最近好きなアニメは「宇宙兄弟」と「ハイキュー!」。180センチ、75キロ。

 ◆連続試合ゴール 青森山田のMF高橋が、初戦の2回戦から4試合連続ゴールを決めた。首都圏開催となった76年度以降、選手権での連続試合ゴール記録は6試合連続が最長で、96年度のFW北嶋(市船橋)ら過去4人。5試合連続は94年度の北嶋らが達成した。J1柏などで活躍した北嶋(現熊本コーチ)だけが5戦以上連発を2度記録し、過去の達成者にはFW大迫(ケルン)FW浅野(シュツットガルト)MF柴崎(広島)FW平山(仙台)ら、日本代表経験者が多数いる。