まさに青天のへきれきだった。1年前、大津(熊本)のFW小林俊瑛(3年)は思わぬ形でキャプテンに就任した。

元々は物静かで引っ込み思案な性格。これまでの人生は「群衆の中のひとり」だった。キャプテンマークを巻くことに対し、不安だけが押し寄せた。

前年度に選手権で準優勝した。決勝戦で青森山田に負けた夜、大津イレブンは次期主将について話し合った。推薦されたのはMF浅野力愛(りきあ)。1年生の時のキャプテンだった。その結論を平岡総監督と山城監督は覆した。

山城監督 僕と総監督で話をしながら、あの決勝戦で一番悔しい思いをした小林をキャプテンにした方が「超越」というテーマに対して、エネルギーになるんじゃないかと。

小林は2年生ながら準優勝時の主力だった。青森山田に負けた瞬間は膝から崩れ落ちた。ピッチ上で涙を流した男に、山城監督は部員212人の大津を任せる決断をした。

そううまくはいかない。小林は何度も「自分でいいのか」と自問自答した。結果もついてこなかった。プレミアリーグで第1節は0-4、第2節は1-2、第3節は0-3…。初勝利は第7節までかかった。「苦しかった。負けが続くと雰囲気は悪くなる。チームと合わない時もあった。それが一番つらかった」。「選手権準優勝」の看板も小林を苦しめた。監督の前で涙を流した日もある。勝ちたい欲求とチームを引っ張れない現実のはざまにいた。

どん底を経験した者は強くなる。「どんなに接戦でも、チームが勝った時にキャプテンやってよかったなって思えるようになりました。本当につらい時期を乗り越えたので」。勝利は練習試合でも良かった。小さな成功体験で自信を沸かせた。自然と人前で話すことに抵抗を抱かなくなった。「話し方や使う言葉は中学生の時と比べて変わりました。人間性はすごく成長したなって思います」。

浅野は主将小林の第一印象を「身長が高くてガツガツ系かなと思ったら、謙虚で引っ込み思案」と振り返った。2年後、全員に言いたいことを全て言えるキャプテンになった。「本当にすごい。想像つかなかったです」と笑った。山城監督も「苦しい思いをした彼が頑張ったからこそ勝てる」と口をそろえた。

大津は負けた。それでも「寝耳に水」だった首脳のキャプテン指名は、1人のサッカー少年を変えた。【只松憲】

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