「希望の光」を照らした。J2昇格初年度のいわきFCがベガルタ仙台との「復興応援試合」で1-0の完封勝利。前半20分。左CKからDF江川慶城(22)がヘッドで値千金の先制弾。試合前日の11日は東日本大震災から12年。「3・11」翌日の「みちのくダービー」で「J2初勝利」をつかみ、被災地の思いも背負った「特別な一戦」でクラブ史に新たな1ページを刻んだ。

この瞬間をどれほど待ちわびたか。いわきが今季4戦目でついにJ2初勝利を挙げた。スコアは1-0。後半、5分のロスタイム。村主博正監督(46)が3度、腕時計に目をやった。仙台の猛攻を粘り腰で耐え抜き、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。試合中、腕を組み、険しい表情で戦況を見守った指揮官の顔が緩み、ベンチ前でスタッフと抱き合い、喜びを爆発させた。

一撃で黙らせた。0-0で迎えた前半20分。左CKからのこぼれ球を、江川がヘッドでゴール右隅へ突き刺した。「気持ちが乗ってゴールに入ってくれた」。執念で押し込んだ。敵陣に攻め込めば、仙台サポーターからの容赦ないブーイングを浴びた。それでも「良い雰囲気だった」と言った。先制の決勝弾で、ホームの大応援団を沈黙させた。

どうしても負けられなかった。試合前日11日は、東日本大震災からちょうど12年。村主監督は選手に問いかけた。「我々が何のために立ち上がったのか?」。11年3月11日。クラブの拠点でもある「福島浜通り」は震災で大きな被害を受けた。津波と原発事故。失ったものは数え切れない。そうした「失意」を経緯にいわきは誕生し、挑戦し続けてきた。過去をチーム内で再確認し、1つの答えを導き出した。「まずは最後まで諦めない姿勢をファン、サポータ-の方々に見せよう」。その言葉をピッチで選手が体現。「3・11」翌日の特別な一戦で節目の1勝をつかんだ。

だが、J2で1勝がゴールではない。村主監督は「まだ1勝しただけ。また、次に向けて準備していきたい」と余韻に浸ることなく、先を見据えた。被災地の思いも背負って、「希望の光」であり続ける。【佐藤究】