Jリーグは1993年(平5)5月15日に産声を上げ、30周年を迎えた。日本サッカーの発展に寄与してきたセルジオ越後氏(77)が、この30年を振り返る。2回連載の後編は、若手の有望選手が欧州へ流出する中、Jリーグに求められていることは何か語った。

    ◇    ◇    ◇

Jリーグが、欧州クラブの草刈り場になって10年以上がたつ。若手が好成績を残すと、代理人は欧州クラブに売り込む。選手と契約期間を残すJクラブは、チーム事情によっては残すことも可能だが、欧州クラブが名乗りを上げると、自分の権利を主張することをためらってしまう。移籍金の満額を取ろうともしない。欧州からのオファーを断ると「あのクラブに入ると欧州に行きづらい」となり、そのうわさは新人獲得の妨げになるからだ。

08年に名古屋にいた本田圭佑がVVVフェンロ(オランダ)へ、10年にはC大阪MF香川真司がドルトムントに移籍し、成功してから欧州クラブは3匹目のドジョウを狙うところが増えた。若手が欧州クラブを目指すのは、悪いとは思わない。年齢は関係ない。プロ選手が、より待遇のいいクラブでプレーするのは当たり前のことだ。言い換えれば、今のJクラブは給料や環境など、選手たちが魅力を感じなくなった。

ただ、欧州に移籍するなら、自分は「助っ人」という認識を強く持って行ってほしい。「経験を積みたい」や「夢だから」で挑戦すると、成功の可能性は低くなる。成功しなかった場合、リーグのレベル、クラブのレベルを下げてでも、欧州にとどまろうとする。試合に出場機会がなくても、出番を求めてJリーグに戻ろうとはしない。そこが間違っている。

欧州でプレーする日本人選手の多くは「Jに戻れば負け」という共通意識があるようだが、それで全盛期が過ぎて終わってしまう選手もいる。1度Jリーグに戻って、それでも行きたいと思うなら、また欧州に行けばいい。ブラジルもアルゼンチンもそういう選手は意外と多い。なんで自国のリーグに戻ってプレーすることを恥ずかしく思うのか、その風潮を打開する努力を今のJリーグはするべきだ。

30年前は世界からJリーグにスター選手が集まった。引退間近な選手もいたが、現役の代表選手も多数所属していた。給料が高かったし、治安も含め日本は環境が良かった。しかし今は、いい外国籍選手はJリーグにほとんど来ない。世界的なスターは、神戸のイニエスタくらい。J各クラブが、攻撃的な経営をしなくなったし、社会的な注目度も落ちているからだ。

少子化が進み、革新的な経済的成長が見込まれない今、無理ができないのが現状か。クラブ数が60に増えても、本当のプロと言えるチームは数える程度しかない。30年でクラブ数が10から6倍増えたことを自賛するより、本当にプロと言えるクラブ数を増やすことを考えないといけない。

(日刊スポーツ評論家)