<高校サッカー:前橋育英1-1(PK戦5-4)流通経大柏>◇準決勝◇10日◇埼玉

 前橋育英(群馬)がミラクルを起こした!

 流通経大柏(千葉)に1点をリードされた後半45分。主将のMF鈴木徳真(3年)が起死回生の同点ゴールを決めた。PK戦でも全員が成功させ、勝利した。実に5度目の挑戦で、初めて鬼門だった準決勝を突破した。12日の決勝(埼玉スタジアム2002)では、ともに初優勝を懸け、星稜(石川)と戦う。

 0-1の後半45分。前橋育英の山田耕介監督(55)は負けを覚悟していた。「ああ、また今年もやられるんだ。何がダメなんだろう」。過去4度の準決勝はすべて相手にはね返され、今年もまた敗色濃厚。指揮官はうつろな表情で、自らの指導について自問自答を繰り返していた。

 だが次の瞬間、奇跡が起きた。ゴール右20メートルの位置でDFのクリアボールを奪った鈴木が強引に右足シュート。ボールは目の前の相手の股間を抜け、さらにGKの前にいたDFの足をかすめ、微妙に方向を変えてゴールに飛び込んだ。

 「入れ!

 と心の中で叫びました。ゴールしか見てなくて、相手はよく見えなかったけど打ったら入った。本当にうれしい」。1年時から前橋育英のエースナンバー14番を背負い、各年代の日本代表に選出されてきた普段は冷静な主将が、なりふり構わぬ一撃で歴史を変えた。PK戦でも全員が落ち着いて決め、5度目の挑戦で初めて決勝のピッチを踏むことになった。

 8日のミーティング。山田監督は過去4度、準決勝で敗れた時のビデオを見せた。奮起をうながす狙いだった。それが「お前ら、もっと感動しろよぉ!」と嘆きたくなる薄い反応。だが選手が必要以上に気負わなかったことが奏功した。

 鈴木は流通経大柏の激しいプレスにさらされながら「このピッチでプレーできるのは22人だけ。観客の目が自分に集まっていると思うとワクワクして楽しかった」と感じていた。重圧を楽しさに変える頼もしい世代に、監督も「(過去4度は)自分のこと。子供たちは関係ないから」と、ただただ脱帽だった。

 実は今年の初めから山田監督が「お前らは弱い」と酷評し続けたチームだった。それでも一体感、一生懸命さだけは先輩たちに負けなかった。この日は、甲子園優勝の野球部の応援も力にして戦った。鈴木は「スタンドも含めて、仲間が一体感を持ってプレーできる。個で打開できるチームではなく、パスワークやハードワークで点が取れているのが僕らの強み」と胸を張った。

 弱小と言われ続けた軍団が、故松田直樹さんやヘルタMF細貝萌ら、そうそうたるOBでも成し遂げられなかった扉を開いた。そして12日には星稜との決勝が待っている。山田監督は「松田さんも天国でよろこんでいるのでは?」と聞かれると「あいつは厳しいですから。優勝しないとダメだって言っていると思う」とニヤリ。あらためて優勝を目標にかかげた。【千葉修宏】

 ◆4連敗

 86年度の初出場(1回戦で九州学院に1-3)から出場4大会連続で初戦敗退。93年度の1回戦で佐賀商に5-1で快勝して大会初白星を挙げた。

 ◆決勝の壁

 過去4強止まりが4度。5度目の挑戦で初めて破った。98年度は帝京に2-3、99年度は市船橋に0-0(PK2-4)、01年度は岐阜工に1-2、08年度は鹿児島城西に3-5で逆転負けした。

 ◆PK戦は苦手

 今大会まで3連敗中だった。03年度は1回戦で四日市中央工にPK2-3、06年度は初戦の2回戦で那覇西にPK3-4、10年度は3回戦で流通経大柏にPK1-3。今大会3回戦の山梨学院大付戦では全員が成功してPK6-5勝利。今回も勝った山田監督は「あれだけ負けたのに(1大会)2回も勝つなんて。奇跡だ」。