2020年9月13日、岡崎慎司が34歳でついにスペイン1部リーグデビューを果たした。対戦相手は久保建英を擁する昨季5位のビリャレアル。岡崎は紆余(うよ)曲折を経て、夢だと語った「スペイン1部」へとたどり着いた。

昨夏、レスター(イングランド)からスペイン2部マラガに移籍した岡崎は、サラリーキャップ制(移籍金の減価償却費や年俸総額などの限度額)の問題により選手登録できず、公式戦を戦うことなくウエスカに入団した。

ウエスカ初の日本人選手となった岡崎の入団発表会は、クラブ史上最も盛大なものだと報じられた。2000人のサポーターが駆け付けたホームスタジアム、エル・アルコラスで熱烈な歓迎を受けた岡崎は、背番号12のユニホームをまとい、笑顔でサインや写真撮影に応えていた。そのスタンドの雰囲気からは、岡崎に対する大きな期待の表れを感じ取ることができた。

岡崎はプレミアリーグ優勝経験を持つ助っ人として、自身に求められている役割が“1シーズンで1部復帰”であることを自覚しており、入団会見でも「チームを1部に上げることが目標だ」とその意気込みを力強く語っていた。

新型コロナウイルスの影響により約3カ月ぶりに再開された昨季のリーグ終盤11試合で7得点と、最高のパフォーマンスを披露し、最終的に12得点を記録してチーム得点王となり、2部優勝及びわずか1年での1部復帰に大きく貢献する活躍は誰もが知るところだろう。

1部昇格を成し遂げた岡崎は「いろいろな苦労のある中で勝ち取れた」と、ここまでの道のりが険しいものだったことを明かした。

ウエスカとの1年間の契約延長後に臨んだ今夏のプレシーズンで岡崎は、昨季終盤からの調子の良さを維持して4試合全てに先発出場し、2得点と結果を残し、9月13日を迎えた。

岡崎は1部デビュー戦を目前に控え、「チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで成績を残しているのがスペインのチームであるのを見ても、1部でやってみたいという希望をずっと頭の中で描いていたし、それがかなうので、正直楽しみだ」と心境を明かし、「初戦はとにかく自分たちのサッカーをぶつけるというのが一番大事」と意気込みを見せた。

さらに今季の目標について、「ゴールを2桁取ること。どのリーグでもそのモチベーションで臨んできたし、スペイン1部でもそれを達成したい。チームが初の残留を決めるのが目標。スペインリーグでも自分の名前を残せるような活躍をしたい」と力強く語った。

迎えたビリャレアル戦、4-2-3-1のセンターフォワードでフル出場し、キックオフから前線で激しいプレスをかけた岡崎に前半35分、この日最大のチャンスが訪れる。

1部リーグでの得点の鍵について「クロスからのゴールをできるかが勝負になってくる」と試合前に語った岡崎は、フェレイロの右サイドからのFKの際、ビリャレアルの守備の要であるスペイン代表DFアルビオルにヘディングで競り勝ち、チーム最初のシュートを放った。わずかに枠を捉えることができなかったが、これは強豪ひしめくスペイン1部でも岡崎のプレーが通用することを十分示すものとなった。

それまで劣勢だったウエスカは、この岡崎のヘッドをきっかけに流れをつかみ、同42分にはGKからボールをつなぎ、岡崎が中盤で高いキープ力を見せた素晴らしい連係プレーから、最後は右サイドを駆け上がった新加入のマフェオが先制点を記録した。

岡崎は後半も前線で体を張ってプレーしたが、チームがビリャレアルに押し込まれ、ほとんどボールが入らず見せ場を作れなかった。そんな中、同9分にフェレイロの左サイドからのクロスをダイビングヘッドで合わせたが、枠に飛ばせず、試合は最終的に1-1の同点で終了した。

ウエスカの地元紙エラルドは、この日の岡崎のパフォーマンスについて「疲れ知らずのハードワーカーは代表クラスのセンターバックコンビと対峙(たいじ)する必要あったが、チームメートにうまく生かされなかった。ヘディングでゴールチャンスをつかんだ」と寸評し、1点(最高3点)をつけていた。

34歳のベテランとなった今でもチャレンジ精神を忘れない岡崎の新たな戦いは始まったばかり。来年5月までの長い道のりの中、夢見た舞台で昨季のようなサクセスストーリーが再び見られることを期待したい。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)