開幕から早くも3週間が経過したサッカーの欧州選手権。スペインは2大会ぶり、史上最多4度目の優勝を目指して準々決勝に進出している。

スペインは開幕前から、キャプテンのセルヒオラモスのメンバー落選、メジャー大会史上初となるレアル・マドリードの選手がひとりも選ばれなかったこと、大幅な若返りによる経験不足、セルヒオ・ブスケツの新型コロナウイルス感染、ワクチン摂取問題など、話題や問題に事欠かなかった。

迎えた1次リーグ最初の2試合、スペインは「ボールをキープするも得点を奪えない」という、いつもの病気を露呈する。スウェーデン戦のボール支配率は75%、ポーランド戦は69%。シュート数も大きく上回り、試合内容で圧倒するも決定力を欠き、2試合とも引き分けてグループ3位となり、早々に敗退の危機に陥った。

ルイスエンリケ監督は、「2試合とも我々の方が上回っていたので自己批判はしない。問題はゴールだ。2試合ともチャンスを作ったが決めることができなかった。ただ決定力を欠いただけだ」とフィニッシュワーク以外に問題がないことを強調した。

21年6月28日、欧州選手権(ユーロ2020)決勝トーナメント1回戦、クロアチア対スペイン ゴールを決めて喜ぶスペイン代表ミケル・オヤルサバル(ロイター)
21年6月28日、欧州選手権(ユーロ2020)決勝トーナメント1回戦、クロアチア対スペイン ゴールを決めて喜ぶスペイン代表ミケル・オヤルサバル(ロイター)

しかしファンの意見は大きく異なった。スペイン紙マルカがポーランド戦後に実施したアンケート「スペイン代表はどこまで行けると思うか?」では、回答者約10万人中48%が1次リーグ、39%が決勝トーナメント1回戦という結果となり、悲観論が漂っていた。

負ければ1次リーグ敗退の決まる運命のスロバキア戦、ルイスエンリケ監督は悪い流れを変えるためローテーションを実施。これまで2試合続けてレギュラーだったマルコス・ジョレンテ、パウ・トーレス、ロドリゴ・エルナンデス、ダニ・オルモに代え、セサル・アスピリクエタ、エリク・ガルシア、ブスケツ、パブロ・サラビアを新たに先発起用して5-0の大勝を飾り、1次リーグを2位通過した。

さらに決勝トーナメント1回戦クロアチア戦では良い流れを生かすため2選手のみ変更して臨み、試合後に指揮官が「我々の最大の失敗は最後の10分間で3-1にした時に試合が決まったと思ってしまったことだ」と、油断により延長戦を戦わざるを得なくなったことを認めていたが、最終的にアルバロ・モラタとミケル・オヤルサバルがゴールを決め、準々決勝進出を果たした。

結果、この2試合でチームは合計10得点を記録。得点力不足という大きな問題を払拭(ふっしょく)した中、スペイン国内では激しいジェスチャーで選手たちを鼓舞するルイスエンリケ監督の決断力や手腕が高く評価されている。

まず、大会直前に新型コロナウイルスに感染したブスケツを登録メンバーから外さずに回復を待ったことが適切な判断と高評価されている。実際、ブスケツはセルヒオラモス不在の中、新リーダーとしてチームを引っ張り、コケ、ペドリとともに中盤を形成して巧みなゲームメークを披露してきた。出場したスロバキア戦とクロアチア戦の2試合でともにMVPに輝き、必要不可欠な選手であることを証明している。

さらにルイスエンリケ監督がモラタを信じ続け、先発起用していることが実を結んでいる。モラタは初戦のスウェーデン戦で決定的チャンスを外し、続くポーランド戦ではゴールを決めたが、スロバキア戦では先制点のチャンスとなったPKに失敗するなど、安定したパフォーマンスを見せられずにブーイングの標的になり、家族が脅迫を受けるまでになっていた。

21年6月28日、欧州選手権(ユーロ2020)決勝トーナメント1回戦、クロアチア対スペイン ヘディングで競り合うスペイン代表セルヒオ・ブスケツ(左)(ロイター)
21年6月28日、欧州選手権(ユーロ2020)決勝トーナメント1回戦、クロアチア対スペイン ヘディングで競り合うスペイン代表セルヒオ・ブスケツ(左)(ロイター)

しかし4戦連続の先発出場となったクロアチア戦、負ければ敗退という重圧がのしかかる中、モラタは延長戦でスーパーゴールを決め、ルイスエンリケ監督の信頼に応えたのである。この活躍を受け指揮官は試合後、「彼は今日、攻守にわたり決定的な役割を果たすことのできる数少ないセンターフォワードであることを証明した。彼にとても満足しているよ」と喜びをあらわにしていた。

また、ルイスエンリケ監督が多くの選手を起用し、1人1人の参加意識を高めてチームをうまくまとめていることが特徴のひとつになっている。ここまでの4試合、フル出場はGKウナイ・シモンとMFペドリだけで、フィールドプレーヤー21人の中で1度も出番がないのはDFディエゴ・ジョレンテのみ。ルイスエンリケ監督は各人に何らかの役割を与えて、チームの連帯感を生むことに成功している。

また、今大会では欧州チャンピオンズリーグ優勝のチェルシー、セリエAを制したインテル・ミラノ、スペインリーグ王者のアトレチコ・マドリードが採用してきたように、3バックがトレンドになっているが、ルイスエンリケ監督は4-3-3を貫いている。流れが悪い場合はシステムではなく選手のポジション変更などで臨機応変に対応し、クロアチア戦ではそれが見事に的中する。右ウイングにフェラン・トーレス、左ウイングにサラビアを配置してゲームをスタートしたが、行き詰まりを感じるとすぐさま両選手のポジションを変更した。これが功を奏しゴールラッシュにつながったのである。

大幅な若返りを図ったことによる経験不足や深刻な得点力不足が懸念されたスペインだったが、試合を重ねるごとに素晴らしいチームワークを発揮して勢いに乗り、決勝トーナメント1回戦を終えた今、合計11得点を記録。9得点で2位のイタリアとデンマークを抑え、大会最多得点チームにまでなっている。さらにお家芸であるボール支配率の1試合平均は67・5%と、59・3%で2位のドイツを大きく上回りトップをキープしている。

そして開幕前、ブックメーカー会社の優勝オッズでは5番人気だったが、準々決勝進出を決め、強豪国が次々と敗れた現在はイングランドに次ぐ2番人気と大きく飛躍している。

スペインはこの後、2日に世界王者フランスを破ったスイスと対戦する。ルイスエンリケ監督がこれまで同様に手腕を振るい、油断することなくブスケツを中心に安定したゲーム運びができれば、2大会ぶり、史上通算4度目の優勝も夢ではないだろう。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)