監督交代後、初となる国際Aマッチ期間でスタートを切った新生スペイン代表だったが、その結果は不本意なものとなった。

昨年のワールドカップ(W杯)カタール大会で、スペインは3大会ぶり通算2回目の優勝を目標に掲げていたが、圧倒的にボールをキープするも得点にはつながらないという最大の課題を打開できず、得点力不足を露呈し続けた結果、決勝トーナメント1回戦敗退という成績で大会を去った。

これによりルイス・エンリケが解任され、新たに就任したルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、主にアンダー世代のスペイン代表で成功を収め、21年の東京五輪では準決勝で日本と対戦したスペイン代表を率いた指揮官である。多くの代表選手の特徴を熟知しているという大きなアドバンテージがある一方、トップリーグのチームを指揮したことがなく、経験不足が懸念される。

スペイン代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督(AP)
スペイン代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督(AP)

デ・ラ・フエンテ監督は昨年12月の就任会見で、前任者よりも攻撃的なサッカーを展開することを明言。就任後初の公式戦となった欧州選手権予選のノルウェー戦とスコットランド戦に向けた招集メンバー26人中、W杯から半分以上の15人を入れ替える改革を実施した(※その後、ペドリらの負傷離脱で変更あり)。

その中でも特にFW陣の人選に注目が集まった。前任のルイス・エンリケは得点力に問題を抱えていたにもかかわらず、W杯メンバーに選んだセンターフォワードはモラタのみで、最終的に高い代償を払う結果となった。一方、デ・ラ・フエンテ監督は今回、モラタに加え、ホセルやイアゴ・アスパスなど、スペインリーグの得点ランキングで上位につける好調の選手たちを選出。得点力不足解消への強い意志が感じられるものとなった。

3月25日、デ・ラ・フエンテ監督は初陣となったノルウェー戦で前任者と同じ4-3-3で臨み、スタメンはW杯組の7人(カルバハル、ラポルテ、バルデ、ロドリゴ、ダニ・オルモ、ガビ、モラタ)とそれ以外の4人(ケパ、ナチョ、イアゴ・アスパス、ミケル・メリーノ)で構成された。

デル・オルモが前半13分に先制点を記録し、幸先の良いスタートを切ったものの、その後はリズムの悪さが目立ち時間だけが経過。追加点に苦しみ、ケパのファインセーブに助けられる中、スペイン歴代2番目に高齢の代表デビュー(32歳363日)を途中出場で飾ったホセルが終盤に圧巻のパフォーマンスを発揮。後半39分と40分に連続得点を記録し、終わってみれば3-0の圧勝となった。途中、不安を感じさせる内容だったが、この勝利は最終的に得点力不足解消に大きな期待を抱かせるものとなった。

3点目のゴールを決めて喜ぶスペイン代表ホセル(AP)
3点目のゴールを決めて喜ぶスペイン代表ホセル(AP)

しかし、その喜びも長くは続かない。迎えた3月28日の第2節スコットランド戦で大幅なローテーションを実施し、ケパ、ミケル・メリーノ、ロドリゴ以外の8人を入れ替えたことが完全に裏目に出てしまった。

ボールを7割近くキープするも攻守ともに機能せず、DF陣のミスやアクシデントから前後半の序盤に失点を喫した。以前と比べてより多くのクロスボールを放り込み、ホセルがヘディングシュートをクロスバーに直撃させる不運もあって最後まで得点を奪えず0-2で敗れ、これまでと同じ轍(てつ)を踏む結果となった。

デ・ラ・フエンテ監督はスコットランド戦後、短い準備期間の中での内容に満足しつつも、自身の考えをチームに浸透させるには時間が足りず、課題がいくつも残されていることを認めていた。

スペインメディアは今回の2試合の結果を踏まえ、ケパやホセルのパフォーマンスやセバージョスのゲームメークなどを評価した一方、新生スペインがまだまだ未完成であることや、新体制2戦目でのいきなりのつまずきが光よりも影を多く残す結果となったこと、新監督のプランに疑問を抱かせるものとなったことなどを伝えた。

さらに現代表には試合で違いを生み出すことのできるトップレベルのスター選手、カシージャスやプジョル、イニエスタ、シャビ、ビジャといったレジェンド級のタレントがいないことを指摘した。

また、敗北を喫したスコットランド戦について、大幅なメンバー変更により連係面のバランスが悪くなったこと、相手の3倍以上のパスをつないだにもかかわらず全く効果的ではなかった点に言及。後半、ゴールを求めてやみくもに前線の選手を投入したことで中盤の駒不足が起こり、パスを供給する選手が足りなくなるという事態に陥ったことを強調した。

スコットランド、ノルウェー、ジョージア、キプロスと同組のスペインは、欧州選手権予選・A組2試合を終え1勝1敗の勝ち点3。勝ち点6のスコットランドに次ぐ2位となっており、残りが6試合と少ないため、これ以上の取りこぼしがやや厳しい状況となっている。

W杯後、FIFAランキングが7位から10位にまで転落したが、スコットランド戦の敗北により、世界トップ10から脱落する危機が迫っている。スペインが最後にトップ10圏外となったのは2007年までさかのぼる必要があるが、現在それ以来のチーム危機を迎えていると言えるかもしれない。

それでもデ・ラ・フエンテ監督による新体制はまだ始まったばかりだ。大幅にメンバーを入れ替えたとはいえ、まだルイス・エンリケ前監督の面影が色濃く残っている。

この後、6月にオランダで開催される欧州ネーションズリーグ準決勝で、W杯予選敗退の憂き目に遭い再起を図るイタリアと対戦することになる。強豪相手に新生スペインの真価が問われることになるが、今回の結果を受け、デ・ラ・フエンテ監督がチームをどのように修正していくのか、その手腕に注目が集まる。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

スコットランド戦に敗れ、位置消沈するスペインの選手たち(AP)
スコットランド戦に敗れ、位置消沈するスペインの選手たち(AP)
スペイン代表のロドリ(AP)
スペイン代表のロドリ(AP)