日本のサッカーファンに、少し遅い“お年玉”が届いたのは、2021年1月14日のことだった。
WOWOW、CLやるってよ-。
注目の欧州チャンピオンズリーグ(CL)、2月16日からの決勝トーナメント全29試合をWOWOWが独占中継、ライブ配信することが発表された。
世界最高峰の戦い、欧州CLを巡っては、Jリーグの全試合の生配信などを行っていることで知られる動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」が、独占放送権を獲得していたが、昨年10月20日に新シーズンが開幕してみると、いきなり視聴できなくなっていた。
“救世主”となったWOWOWに対し、SNS上で歓喜の声があがった。
「涙を禁じ得ない」
「有能すぎる」
「ありがとう」
「神すぎる」
決勝トーナメント目前に、番組制作の指揮を執るWOWOWのスポーツ部プロデューサーにオンラインで取材し、その熱い思いなどを聞いた。
(聞き手=八反誠)
◇ ◇ ◇
-CLが日本に戻ってきました、すごい反響でしたが
高橋岳氏(以下高橋氏) 反響は思っていた以上のものでした。特にSNSで、あれだけお褒めの言葉をいただき、うれしい言葉がいっぱいあった。その期待を絶対に裏切ってはいけない、そういう番組制作を心掛けてやっていきたいと思っております。
-使命感というか、今の思いを教えていただけますか
瀧口創氏(以下瀧口氏) WOWOWは18年前までは放送させていただいていたんですが、その後、スカパーさん、DAZNさんに移り、見られない期間が出て、『見たいのに見られない』という状況が続いた中での放送となるので、いろんな期待があると思います。大会そのものはもちろん、久しぶりに放送するWOWOWってどうなの? WOWOWさん、どの程度やってくれるの? という注目のされ方も、あるのかなと思っています。
最高レベルの大会を放送するということで、お客さんが期待されている以上のものをお届けしたい。それができて初めて、WOWOWが放送してくれてよかったね、ということになると思っています。いい意味でプレッシャーを感じています。
-ラ・リーガ(スペインリーグ)の中継や、欧州選手権も含め、サッカー中継の実績とノウハウをお持ちです
瀧口氏 4年に1度、ユーロ(欧州選手権)はやらせてもらっているんですが、この十数年は、スペインサッカー1本でやってきました。プレミア、セリエA、ブンデスのファンの方々が、一気にCLのためにWOWOWに来てくださることになると思うんですが、今までのリーガと同じクオリティーで、他のリーグの強豪チームのことも伝えていかなくてはいけない。そんなプレッシャーがあります。
-どんな見せ方を考えていらっしゃいますか
高橋氏 中継ではハーフタイムにWOWOW独自制作のVTRを入れたり、過去の試合を振り返って、次の試合への期待を抱いてもらうような作り方もやっていきます。中継だけではなく、試合開催週の金曜日にはダイジェスト番組も用意しています。
-番組制作で、大事にされていることを教えてください
高橋氏 WOWOWのサッカー中継に脈々と受け継がれてきた精神である、フェアネス、公平性を大事にしたいと思っています。CLには各国リーグの強豪が出てくるので、公平に扱いたいですし、選手個人の伝え方にしても、有名選手だけを褒めたたえるのではなく、試合内で活躍した選手をしっかりと、取り上げたいです。次の試合につながるような見方を実況解説でお話いただきたいと思っています。
-リバプールから南野拓実選手、ポルトから中島翔哉選手が移籍し、日本選手がいなくなりましたが、「フェアネス」という点からすると、あまり問題はないということでしょうか
瀧口 日本人選手がいてくれたら、もちろんうれしいですし、ありがたいです。ただ、彼らが移籍しても、最高峰のクラブが集う大会だという点は一切変わらない。フェアネスという部分に加えて、選手へのリスペクト、ここをずっと大事に、サッカー中継を続けてきました。フェアネスは高橋が先ほど、お話しさせていただいた通りですが、日本人選手が出ていれば、もちろん応援はしたい、そういう本音の部分はあります。ただ、何でもかんでも褒めたたえればいいとは思っていません。課題があれば、指摘して、そういうスタンスでやってきています。同時に、選手へのリスペクトという点では、例えば、決定的なシーンでゴールが決まらなかった時、もったいないというより、止めたキーパーを褒めたたえたい。そういった発想を大事にやってきています。
もちろん、課題の指摘や批判もありますが、その場合も、その選手がより活躍していくために、という愛情をもった形にしたいと思ってやっています。そういう実況解説、番組作りを心掛けているつもりです。実況解説もポジティブな方が、高いお金を払って、深夜に見てくださるお客さんも気持ちいいんじゃないかと思うんです。これが先代、先々代の担当者から受け継がれてきたものです。
-その実況解説で“新戦力”については、どうでしょう
高橋氏 今までのスペインリーグのメンバーに加えて、他のリーグを見てこられた方に、力を貸していただくことになります。実況では西岡明彦さん。解説では、戸田和幸さんと風間八宏さん、以前にラ・リーガ解説をお願いしていた関塚隆さんにも加わっていただき、実況解説もパワーアップしてお届けします。
-CLはまさに世界基準です。日本サッカーに与える好影響も、計り知れないと思います。日本サッカーに対する思いをお聞かせください
瀧口氏 ラ・リーガを長く放送させてもらって、感じることがあります。その国のファンがその国のサッカーを強くする、そういったふうに、すごく強く感じています。ファンの要求、見たいプレー、そのレベルが高ければ高いほど、選手やクラブは、それに応えようとするでしょうし、それが、ひいては、その国の代表チームを強くすることにつながっていると感じるんです。
CLという世界最高峰の戦いを、日本のサッカーファンにお届けしていくことで、世界、ヨーロッパの最高峰、現在のスタンダードをお伝えし、日本のサッカーファンがもっとサッカーが好きになり、求めるレベルが高くなる…。そうして日本サッカーの発展に少しでも貢献できたら、うれしい。おこがましいですけれど、そういう思いを、ずっと持ってやっていきます。
◆欧州CL中継 WOWOWが放送するのは決勝でACミランがユベントスを下して欧州王者となった02-03シーズン以来、実に18季ぶり。日本での放送については、放送権を18-19シーズンから3季にわたり獲得していた動画配信サービスDAZNが2季で権利を手放したため、今季の欧州CL1次リーグは日本で放送、配信されず、欧州サッカー連盟(UEFA)の公式動画配信サービス「UEFA.tv」で限られた試合を視聴するしかなかった。