ジャカルタ・アジア大会女子200メートル平泳ぎで渡部香生子(21=早大)が2分23秒05で連覇した。

 150メートルまでは3位だったが、ラスト10メートル付近から青木玲緒樹らを差し切った。

 「落ち着いて自分のレースをしたかった。タイムは満足しないが、優勝できて良かった。最後の50メートルが勝負と思っていた。最後まで落ち着いていた。つらいこと、うれしいことがたくさんあったが、結果を残せて、成長しているなと」。

 決勝では予選の勢いを発揮した。予選では2分27秒05で全体のトップ通過。12日までのパンパシフィック選手権では100メートル予選を泳いだ後に熱が出て、レースを回避。今大会に備えてきた。「パンパシで泳げなかった分、最高のレースをしたい」。前半の100メートルを1分10秒53で折り返して「少し緊張しましたが、余裕をもって泳げたかな。(前半は)だいぶ楽にいったと思うので、想定内のタイムです」と調子の良さを実感していた。

 どん底からの復活劇だ。地獄は16年リオオリンピック(五輪)前から始まっていた。前年15年世界選手権は200メートルで世界の頂点に立ったが、その後は重圧もあり、思うような練習ができない。リオには戦闘態勢が整わないまま本番を迎えた。得意の200メートルは決勝にも進めず惨敗。帰国後は一時引退も考えるほど落ち込んだ。

 現役に踏みとどまった要因の1つに先輩スイマーの存在がある。リオ五輪金メダリストの存在もある。リオ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダリスト金藤理絵。12年ロンドン五輪落選から毎年引退危機に見舞われながら、27歳にして世界の頂点に立った。ライバルに負けた悔しさ以上に、数々の挫折を乗り越えた金藤との覚悟の違いを痛感した。「もう逃げない」と心に誓った。昨年はその覚悟を早速問われた。

 昨夏、世界選手権ブダペスト大会に「渡部香生子」の名前はなかった。けがもあって6年ぶりの代表落ち。中学生以来、日の丸をつけない夏になった。練習の合間に、気分転換で友達と「お台場ウオーターパーク」に遊びに行った。ウオータースライダーがあり、夜はプールがライトアップされて、幻想的な光景が広がった。0秒01を争ういつものプールとは別世界だった。楽しくはあった。ただSNSで日本代表がブダペストで円陣を組む写真が目に入った。「私、何してんだろう」。離れてみて、代表の尊さが胸にしみた。

 15歳でロンドンに出てから、常に結果を求められた。16年リオ五輪も不発。「結果を出さなきゃってそればかりだった」。挫折を経験した上で「また戻ってこられると、伸び悩んでいる人に知ってほしい。東京で精いっぱいやったと思える泳ぎがしたい」と話している。15年世界選手権金メダリストはジャカルタから再スタートを切った。