青学大の中村唯翔(3年)が汚名返上の快走を見せた。9区で初の1時間7分台をマークし、14年ぶりに区間新記録を樹立した。

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昨年は「花の2区」で区間14位に沈んだが、今年は新記録での総合優勝に大きく貢献。さらに、大会の最優秀選手に贈られる金栗四三杯にも、中大・吉居大和(2年)とともに輝いた。

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ドキドキがワクワクになった。「正直緊張があって。その時に8区の一世(佐藤)が『楽しいですよ』ってひと言を掛けてくれた。すごく緊張がほぐれました」。たすきと楽しむ心。中村はしっかり受け取った。

顔が少しほころぶと、強気になった。「走りだしてからは区間賞と区間新を狙いたいと思っていた」。復路最長区間で続く独り旅。中継車と先導の白バイを、前を走るライバルに見立てた。10キロ付近からは再び伸びを感じ、最後まで笑顔で駆け抜けた。

誓い通り14年ぶりに打ち立てた区間新記録。苦い記憶もうれしい思い出に塗り替えた。昨年は初めての箱根駅伝で「花の2区」を任されるも、区間14位に終わった。「トラウマもありますし、実力じゃ勝てないかなと思いました」。

苦しい時間は新チームになっても続いた。昨年5月に仙骨(尾骨の上の骨)を疲労骨折し、2カ月間全く走ることができなかった。復帰できたのは8月の合宿。「前期は本当に苦しかったです」。乗り越えられたのは、仲間がいたからだ。「同期の力です。近藤幸太郎を筆頭に(いい記録を)出してくれると『自分もやらなきゃな』と思ったので、へこたれちゃダメだなと感じました」。トラックレースで結果を出し続ける姿が発奮材料だった。

11月の全日本大学駅伝でも区間14位。気持ちが沈みながらも、走りはやめなかった。明大や中大などと戦う新設の「MARCH対抗戦」で、1万メートル自己ベストを更新。仲間とともに戦う自信が戻ってきた。「8人もエントリーに入っていて本当に強い学年。走れなかったメンバーたちの思いも背負って、ずっと考えながら走っていました」。かけがえのない存在は、孤独なロードの支えにもなった。

「金栗杯は中村君だと思いますよ!」。優勝会見後に、原監督が“フライング発表”してしまうほどの快走だった。「楽しいなと思いました」。失意のどん底から、歓喜の立役者になった。【磯綾乃】

◆中村唯翔(なかむら・ゆいと)2000年(平12)6月9日生まれ、千葉・流山市出身。流通経済大柏を経て青学大では総合文化政策学部に所属。昨年11月に行われた「MARCH対抗戦」で、1万メートル自己ベストの28分29秒43をマーク。ハーフマラソン自己ベストは1時間2分52秒。174センチ、59キロ。

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◆金栗四三杯 04年の第80回から創設された最優秀選手を表彰する賞。大会創始者の1人で、日本マラソンの父とも呼ばれる故金栗四三(しそう)氏が唱えた「箱根から世界へ」の思いが込められている。初代受賞者は、学連選抜で5区を快走した筑波大・鐘ケ江幸治。2人同時受賞は、07年の東海大・佐藤悠基、順大・今井正人以来2度目。