第99回東京箱根間往復大学駅伝競走で、駒大が2年ぶり8度目の総合優勝を飾った。出雲、全日本を制し、史上5校目の同一年度3冠を達成。駒大の圧倒的な強さの要因は何か。大八木弘明監督(64)の名采配の裏には、苦い経験を踏まえたチーム作りと指導スタイルの変化があった。「箱根路の男たち」と題し、5回連載で今大会のドラマを振り返る。

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駒大は絶対エース田沢廉(4年)が万全の体調ではなかった。花尾恭輔(3年)佐藤圭汰(1年)の主力2人も欠いたレースだった。本番直前のミーティング。大八木監督は選手に指示した。「区間賞を取ろうとかじゃなく、全員が区間5位以内で走れば総合優勝できる」。区間賞は6区伊藤蒼唯(あおい、1年)だけ。それでも、監督の指示通り、全員が区間5位以内に入った。ブレーキなしの安定したタスキリレー。「つないでいけば勝てる。箱根を勝つための初心に戻った」。作戦が的中した。

過去2回、3冠を逃した。「2回とも選手層が薄かった」。今季は学生陸上界を代表する選手に成長した田沢からスーパールーキー佐藤まで、上級生から下級生まで主力級がずらり。この分厚さが、作戦遂行の土台となった。「(02年から)4連覇の時は層が厚かった。(今回は)それができた。選手層の厚さを作ったのが勝因」と分析した。

箱根は09年から20年まで勝てず。時代に合わせて指導方法を変えた。「若かった時、ほぼ一方通行で私が決めたことをやれということが多かった。コミュニケーションを取るように変えた」。「昔と今の子どもたちは違う」と考えるようになった。「親子の関係みたいな感覚も必要。私だけで決めるのではなく、選手の考えを聞くようになった。考えさせながら実行させることが大事」。対話を重視するようになった。

変えていないものもある。「礼儀と当たり前のことを当たり前にする。チームの和を乱さない」。選手層の厚さと時代に合わせた指導スタイルの変化。采配と全てがかみ合い、偉業を成し遂げた。【近藤由美子】