“練習の虫”が日本のハードル界に新たな歴史を刻む。今日19日、陸上の世界選手権がブダペストで開幕する。男子110メートル障害の泉谷駿介(23=住友電工)は、同種目で日本勢初の決勝進出の期待がかかる。6月の日本選手権で日本新記録となる13秒04を樹立。世界最高峰シリーズ・ダイヤモンドリーグ(DL)ローザンヌ大会ではDL初出場初優勝を飾った。表彰台ラインの13秒0台は今季3度マーク。メダル獲得も期待される男は、いつも通りに世界舞台へ臨む。

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泉谷は大舞台を目前にしても、全く気負いがなかった。15日のブダペストへの出国前。約10分で4度も「自分のレースを」と口にした。「前半のスタートから落ち着いて1台目(のハードル)を越えて、だんだんスピードに乗って、終盤以降は失速を抑えながらいきたい」。目標タイムは明言せず、いつもの穏やかな口ぶりで具体的なレースプランを思い描いた。

真摯(しんし)に競技と向き合うことを貫いてきた。今シーズンは課題だった後半での失速を改善するため、2つのポイントを掲げた。1つは1台目のハードルまでの入り方。「去年まではピストルが鳴った瞬間からがっついていた」が、今季はあえて序盤のスピードにこだわらなくした。2つ目は再現性の向上。どのハードルも、最もスムーズに跳べる約2メートル20センチ手前から踏み切れるよう、練習ではマーカーを設置した。その成果もあり、DLでは出場した2試合とも、最終10台目以降のタイムは出場選手の中でトップをマーク。「減速することなく、勢いのままいけている」と後半のスピードに磨きがかかった。試行錯誤を見続けてきた山崎一彦コーチは「日々修正して、良くなっていく。究極の完璧主義。1つ1つドリルの小さいところから完璧にしている」と評する。

その姿勢は高校時代から変わらない。神奈川・武相高入学時は走り高跳びの選手で、自己ベストは県大会にも届かない1メートル71センチだった。おとなしい性格で口数も少なかった。顧問の田中徳孝先生は細くて優しい印象を受けたが、1つだけ目を見張るものがあった。「とにかく練習が大好きでした」。午前7時からの朝練習や冬季練習などでスプリント、跳躍練習、サーキットトレーニングを「楽しそうに続けていました」。それが結果に表れた。高1の7月には1メートル90を跳び、自己記録を19センチも更新。その後は八種競技に挑戦し、全国高校総体で優勝するまでになった。「とにかく頑張り屋で努力の人」と優しいまなざしで回顧する。

順大進学後は110メートル障害に軸足をシフト。今回は21年東京五輪、22年世界選手権に続く世界舞台となる。過去2度は準決勝で散ったが、この夏の泉谷には確かな手応えがある。「DLの結果から自信はついている。決勝は安全圏内でいける」。積み上げた日々の先に、結果が待っている。【藤塚大輔】

 

◆泉谷駿介(いずみや・しゅんすけ)2000年(平12)1月26日、神奈川県生まれ。横浜緑が丘中、武相高を経て、18年に順大へ進学。22年に住友電工入社。21年日本選手権で日本人初の13秒0台(13秒06)で東京五輪代表入り。同五輪は同種目日本勢57年ぶりの準決勝進出。22年世界選手権は準決勝敗退。23年日本選手権で日本新記録(13秒04)樹立。好物はコーヒー。

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