FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会は1次リーグで“番狂わせ”が頻発した。優勝経験のある伝統国から、アジアやアフリカの新興国が次々と金星を挙げた。しかし、結局ベスト8に勝ち上がった顔触れは、いずれも伝統国ばかり。「世界の勢力図が変わった」という声も小さくなりつつある。

日本も決勝トーナメント1回戦で、前回準優勝のクロアチアにPK戦の末に敗れた。クロアチアも“東欧のブラジル”と呼ばれた旧ユーゴスラビアの伝統を引き継ぐ強豪国。日本も奮闘はしたが、牙城を崩し切ることはできなかった。テレビ解説の岡田武史氏は試合後「(日本は)まだ足りない」と語った。

日本の4度のベスト16敗退は、いずれも紙一重の差だった。02年は1点差、10、22年はPK決着。そして18年は最後のプレーからの失点。不運とも思えるが、パスやトラップ、シュートの精度、ボールに詰めるスピード。おそらく、その紙一重の積み重ねが、伝統国との差。結果的に勝敗を分けたのだと思う。

日本の欧州組は02年の4人から19人に増えた。トップ選手たちが厳しい環境で技術と心も磨き上げた。それでもW杯での成長曲線は20年間横ばい。さらに1段上に積み上げるには、上だけではなく、世界基準を意識した育成年代の強化の見直しが必要なのだと思う。最近10年はU-17、U-20ともにW杯の最高成績はベスト16にとどまっている。

多くの伝統国に共通するのは、100年にも及ぶ長い国内リーグの歴史に裏打ちされた“サッカー文化”が根を張っていること。20年ほど前、バルセロナのカフェでサッカー論議に熱中する老人たちを目にしたことがある。W杯の時だけではなく、ふだんの国内リーグから老若男女がサッカーに熱狂する。そんな広くて深い土壌が、伝統国には横たわっている。だから頂きも高いのだろう。

日本はJリーグができてまだ30年足らず。W杯初出場から四半世紀しかたっていない。W杯優勝経験のあるドイツとスペインを逆転で撃破しての1次リーグ首位突破は上出来だろう。世界でこれほど急速な成長を遂げている国はないのだ。自分たちを信じて前に進めば、きっとベスト8、優勝へと道は開けるはずだ。

そして、そんな未来を託された日本のサッカー少年たちにとって、世界を驚かせた今大会の森保ジャパンの戦いは、最高のエネルギーになったのだと思う。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「スポーツ百景」)

日本対クロアチア 試合後、サポーターにあいさつする森保監督(撮影・横山健太)
日本対クロアチア 試合後、サポーターにあいさつする森保監督(撮影・横山健太)
PK戦の末クロアチアに敗れ、サポーターにあいさつする森保監督(共同)
PK戦の末クロアチアに敗れ、サポーターにあいさつする森保監督(共同)
日本対クロアチア 試合後、握手を交わす森保監督(左)と反町技術委員長(撮影・横山健太)
日本対クロアチア 試合後、握手を交わす森保監督(左)と反町技術委員長(撮影・横山健太)
日本対クロアチア PK戦前の円陣で選手たち声をかける森保監督(中央)(撮影・横山健太)
日本対クロアチア PK戦前の円陣で選手たち声をかける森保監督(中央)(撮影・横山健太)