東京オリンピックの最終選考会となるワールドカップの代表選考会が、東京辰巳国際水泳場で行われている。初日の5日は、2人の同調性を競うシンクロ種目の代表選手が決定した。


女子シンクロ板飛び込みで選考1位になり、宮本(左)に抱き付く榎本(撮影・鈴木正人)
女子シンクロ板飛び込みで選考1位になり、宮本(左)に抱き付く榎本(撮影・鈴木正人)

東京オリンピックのシンクロ種目は開催国枠があり、今大会の優勝チームは代表に大きく近づくことになるため、選手たちはかなり緊張した様子だった。

■逃げ出したくなる緊張感

私もオリンピックに関わる国内選考会を3度経験したが、もう二度と味わいたくないほどの緊張と重圧で毎回逃げ出したかった。でも目標を達成したいという思いがそれを引き留め、最後には覚悟を決めて試合に臨んでいた。最後の最後に信じられたのはいつも自分だった。


女子シンクロ板飛び込み決勝、演技する宮本(左)と榎本(撮影・鈴木正人)
女子シンクロ板飛び込み決勝、演技する宮本(左)と榎本(撮影・鈴木正人)

注目したのは女子3mシンクロ。1位となってオリンピック出場のチャンスに1歩近づいたのは、榎本遼香・宮本葉月ペアだった。

予選、決勝ともに2位の金戸凜・安田舞ペアに10点ほどの差をつけた。だが、決勝では5本目の最終種目で演技が乱れ少しハラハラする試合展開だった。

■決勝でのメンタルが大事

試合(特に予選後の決勝)ではよく体が動くようになり、そこに緊張やアドレナリンの力で自分をコントロールすることが難しい。飛び込みという競技は、試合で急に高く上がってしまったり、回転が速くなってしまうことが命取りになる。とてもメンタルが影響する繊細な競技なのである。まだ若くて経験も浅い彼女たちの普段の練習を見ているとまだまだ伸びる余地があると思う。


女子シンクロ板飛び込み選考1位になり涙ぐむ宮本(左)と笑顔を見せる榎本(撮影・鈴木正人)
女子シンクロ板飛び込み選考1位になり涙ぐむ宮本(左)と笑顔を見せる榎本(撮影・鈴木正人)

初のオリンピック出場が見えてきた2人は涙を流して喜んでいたが、勝負はここから。世界との差は小さくない。どういった戦いをするかを明確に考え、まずはワールドカップで世界と戦えるよう日本代表としての自覚と意識も鍛えていってほしいと思う。

■35歳のチャレンジに拍手

そして3位に終わった渋沢小哉芳・金戸華ペアについても触れたい。渋沢選手は2016年に1度現役を引退した。だが、東京オリンピックという特別な舞台に出場する夢を諦めきれず、1年前に現役復帰した35歳のベテラン選手だ。

3年のブランクの影響は大きく、シンクロ種目での出場はかなわなかった。長年、日本代表として一緒に戦った仲間として応援していたので残念だったが、とても価値のあるチャレンジだったと思う。まだ個人種目での可能性も残っているので、最後まで諦めることなく頑張ってほしい。

■出場1組に危機感持って

最後に女子10mシンクロについて。すでに10mの個人種目で出場権を獲得している荒井祭里と、前回のリオデジャネイロオリンピックに出場した板橋美波のペアが出場権を獲得した。しかし今回、この種目は出場が1チームだけという刺激のない試合となった。運も実力のうちというが、このことは日本の飛込み界にとって今後の大きな課題であるとともに、危機感を持たなければいけないと思う。

今回、シンクロでのワールドカップ出場を決めた選手たちは、このままオリンピックへ出場する可能性も高い。だが、まだ個人種目が残っているので、余韻に浸らずしっかりと気持ちを切り替えて次の試合に臨んでほしい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)