「スノーボードの女王」が、ようやく五輪で輝いた。スノーボードクロス女子決勝、36歳のリンゼイ・ジャコベリス(米国)は、スタート直後からトップをキープ。今回は転ぶことも、抜かれることもなく、1位で涙のゴールに滑り込んだ。

06年トリノ五輪、初めて行われた同種目に、世界女王として臨んだ。圧倒的な強さで2位以下を3秒も離して独走。誰もが金メダル確実と思ったゴール直前後のジャンプで「事件」が起きた。空中での不要なグラブでバランスを崩し、まさかの転倒。後続に抜かれて金メダルは消えた。

「かっこいいから」ボードをグラブでつかんだ。プロスノーボーダーらしいが、代償は大きかった。愚かな行為と批判された、何より、五輪の女神に見放された。

10年、14年と準決勝でコケた。18年も4位に終わった。その間に世界選手権を6回制覇、Xゲームで10回優勝したが、五輪だけは勝てなかった。世界中の「ちゃんとゴールしてくれ」という願いも届かなかった。

思い出すのはスピードスケートのダン・ジャンセン(米国)。圧倒的優勝候補として臨んだ88年カルガリー大会はレース前日に姉が白血病で急死したショックで転倒。その後、数多くの栄光を手にしたが、五輪だけは転倒が続いた。ラストレースとなった94年リレハンメル五輪男子1000メートルで金メダルを獲得した時には、ドラマのハッピーエンドに世界中が泣いた。

冬季五輪には長く出場を続ける「王者」や「レジェンド」が多いように思う。それぞれ背負う物が多いから、ドラマも壮大になる。スピードスケート女子のペヒシュタイン(ドイツ)は今大会がジャンプの葛西紀明と並ぶ史上最多の出場8回目。ドーピングによる2年間の出場停止を経ての大記録達成だった。

スノーボードHPの王者ホワイト(米国)もジャコベリスと並ぶ5大会目。すでに3個の金メダルを獲得している王者は、最も成功した冬季五輪金メダリストの一人で、最後と決めた今大会で4個目の金を狙う。

20代が中心、10代も活躍するスノーボード。ホワイト自身も06年に初めて金を手にした時は19歳だった。35歳でもなお一線で活躍しているのは驚異的だが、衰えもあるはず。予選は4位で通過したが、ゴール後に肩で息をするなど、いっぱいいっぱいに見えた。

対して平野歩には余裕があった。安定感が違った。平昌では王者にあと一歩届かなかったが、今回は逆転しそうだ。少なくとも予選での両者の差は、前回と違って大きくみえた。途中に夏季五輪のスケートボードまで挟んで行われる「王者の交代」。それもまた、冬季五輪の「壮大なドラマ」だろう。【荻島弘一】

(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

スノーボードクロス女子決勝 1着でゴールする米国リンゼイ・ジャコベリス(AP)
スノーボードクロス女子決勝 1着でゴールする米国リンゼイ・ジャコベリス(AP)
スノーボードクロス女子決勝 金メダルを獲得した米国リンゼイ・ジャコベリス(AP)
スノーボードクロス女子決勝 金メダルを獲得した米国リンゼイ・ジャコベリス(AP)
スノーボードクロス女子決勝 金メダルを獲得した米国リンゼイ・ジャコベリス(右端)(AP)
スノーボードクロス女子決勝 金メダルを獲得した米国リンゼイ・ジャコベリス(右端)(AP)