ラグビーW杯イングランド大会が18日に開幕した。歴代日本代表において「史上最強」といわれるエディージャパンは、91年以来24年ぶりの勝利に終わらず、8強進出を目指す。躍進のカギを握る日本の武器を、5回に分けて紹介する。最終回のSH田中史朗(30=パナソニック)は、味方が密集の争奪戦で確保したボールを最初に手に取り、攻撃をスタートさせる。左右、後ろ、どこにいる選手に出すのが最適か。キックを使うか、それとも自分で持って走るか。「場合にもよるけど、基本的にボールを触ってから判断に1秒はかけないようにしている」。ハイテンポでつなぐ日本の攻撃の中で、SHの判断が遅れると相手守備に追いつかれてしまう。田中の速くて正確なプレーに、ジョーンズHCは「世界有数のSH」と賛辞を贈る。

 判断力は、体が小さくても生き残るために培った武器だ。田中は、今大会のメンバーからは落選したパナソニック同僚のSH内田を引き合いに出し「サイズもスピードも体力も負けているし、パスも遠くに投げられない」と言う。昨季スーパーラグビー(SR)で所属したハイランダーズでは、体力測定で「ビリの方だった」。ましてやSHには、王国ニュージーランド代表の正SHスミスがいた。

 「身長を今からあと10センチ伸ばすのは難しい。だけど、ラグビーを考えることは誰でもできる」。身体能力ではかなわないからこそ、頭脳で活路を開いた。「たとえば当たりにいくなら僕よりハタケ(プロップ畠山)がいくほうがいいし、コリー(NO8ホラニ)ならもっといい。誰がどこにいて、守備がどうなっているか。そのへんを判断する」。味方から掛かる声も聞きながら、1秒で最良の選択肢を見極める。

 初戦はパワー世界一と呼ばれる南アフリカ。味方ボールを確保するFW陣が押されれば、判断にかけられる時間はさらに短くなる。「南アは強いし勝つのは難しいことだけど、自分たちの力がどれだけあるのかを示したい」。日本の頭脳が、金星への狭き道を探る。【岡崎悠利】(おわり)

 ◆田中史朗(たなか・ふみあき)1985年(昭60)1月3日、京都市生まれ。中1からラグビーを始める。京都・伏見工高1年で花園優勝。京産大を経て三洋電機(現パナソニック)に加入。12年にハイランダーズ(ニュージーランド)に加入し、日本人初のSR選手となったパイオニア。14年には世界選抜に選出され、昨季SRで優勝も経験。166センチ、71キロ。