世界3大レースの1つ、インディ500で元F1ドライバーの佐藤琢磨(40=ホンダ)が日本人初優勝を果たした。2列目からスタートし、残り5周でトップに立って逃げ切った。これまでの日本勢の最高順位は03年に高木虎之介がマークした5位。10年からインディカー・シリーズに参戦している佐藤が、F1のモナコGP、耐久レースのルマン24時間と並んで世界3大と称される米国伝統のレースで頂点に立った。

 残り5周で、インディ500で3勝のカストロネベスを追う2位の佐藤が勝負に出た。直線での強さを生かして横に並び、一気に追い抜いた。猛追する実力者に1度は並ばれかけたが、絶妙なコース取りでトップを死守。目の肥えた米国のファンが総立ちになる勝負に0秒2差で勝ち、歴史的快挙を成し遂げた。観客は熱狂の渦と化し、「佐藤コール」も湧き上がった。

 佐藤は優勝者の恒例となっている牛乳を飲み、途中で自らの顔にかけて大喜びした。1909年のサーキット開場時のれんがの路面にちなみ、スタートとゴールのラインに残しているれんがにもキス。「長い道のりだったが、インディ500に勝ってうれしい。この瞬間が人生最高の時だろう」と相好を崩した。

 40歳での歴史的勝利を「今回は第1コーナーには自分の走るイメージを持っていた」と落ち着いて振り返る。2012年のレースでは最終周まで優勝争いを演じながら、追い抜きにいった第1コーナーでクラッシュ。「やり残した仕事をしたかった」という。この日は高速の第1コーナーで逆転されそうになったが、トップの座を死守した。

 この伝統のサーキットでは、04年のF1シリーズ米国グランプリで3位となり、表彰台に上がっている。「ここは自分にとって、かけがえのない場所。第1コーナーを曲がる時の景色は最高」と感慨深げだ。

 攻守両面に円熟のハンドリングを見せた。「40歳だと自分の競技レベルをどう維持するかを考える人もいる。でも自分はもっと上に上がりたいし、まだまだ走り続けたい」と話した。

 今季はマイケル・アンドレッティ氏の率いる名門チームに移籍した。強豪のマシン設定能力の高さを生かし「攻めるところと引くところを考えた」と、これまでの攻撃一辺倒ではない走りを披露。リスク管理と勝負どころの強さを両立させた。アンドレッティ氏は「タクマ(佐藤)は経験豊富で運転技術も高いと思っていた。ピンチもあったが、よく耐えていた」。日本のモータースポーツ史に新たな金字塔を打ち立てた。

 ◆佐藤琢磨(さとう・たくま)1977年(昭52)1月28日、東京都生まれ。自転車で高校総体優勝。鈴鹿レーシングスクールを首席で卒業し、01年に英国F3選手権で総合優勝を果たした。02年にジョーダン・ホンダでF1デビューし、BARホンダ時代の04年米国GPで日本人最高タイの3位で表彰台に上った。インディカー・シリーズには10年から参戦し、13年の第3戦で同シリーズ初優勝。趣味はドライブ、サイクリング、食事。164センチ、59キロ。