日本のエース内村航平(28=リンガーハット)が、左足首を負傷して途中棄権し、個人総合で7連覇を逃した。2種目目の跳馬の着地で痛め、4種目目の鉄棒以降を棄権。国内外の大会での個人総合で08年11月の全日本選手権からの連勝が40でストップし、五輪2連覇も合わせた世界一は8年連続で途絶えた。3年後の東京五輪を見据え、日本体操界初のプロ選手に転向して迎えた一戦で、試練が待ち受けていた。
内村が顔をゆがめた。2種目目の跳馬で「この跳躍で死ぬかもしれないと何回か思った」という高難度の「リ・シャオペン」に挑んだ。高さが足りない中、強引に体をひねって着地し、左足首付近を痛めた。「すねが真っ二つに折れたかと思った」ほどの衝撃に、そのままフロアに座り込んだ。足を引きずりながら平行棒に臨んだが、着地で踏ん張れない。「諦めがついた」と4種目目の鉄棒以降を棄権した。
「リ・シャオペン」は、昨夏のリオデジャネイロ五輪以降の試合では跳んでおらず、9月の試技会や大会前の本会場練習でも成功していなかった。だが、海外勢や若手が成長する中、9年連続の世界一には演技の難易度を上げなければならなかった。「体の負担も、精神的なつらさもある。つらいけど、できたときの喜びが倍になって返ってくるのを楽しみにやっている」。そう思いつつ、決して楽観視できない状況に「自分のことでいっぱい、いっぱい。周囲を気にしている余裕はない」と吐露していた。不安は的中した。
「地獄です。止まった方が楽だった」。4月の全日本選手権で10連覇した時に思わず漏らした。勝ち続ける者しか分からない「地獄」がある。以前なら試合の日に起きると「ぐわっと」気持ちが高ぶったが、初めて五輪で個人総合を制した12年ロンドン大会以降、それがなくなった。「何を思えば気持ちが上がるんだろう」。過去の演技を思い返すなどして意欲をかき立てようとした。リオデジャネイロ五輪後の昨年11月末でコナミスポーツを退社し、プロ転向したのも、自分を奮い立たせるためだった。
9年間続いた国内外での連勝記録が「40」で止まり、湧き上がってきたのは再起への思いだった。「けがをするということはまだ下手ということ。下手だから伸びしろがある。これをしっかり治してはい上がってやろうと思う」。松葉づえ姿でハッキリと言った。
◆個人総合の内村 08年北京五輪後の全日本学生選手権で2位だったが、同年11月の全日本選手権から国内外の大会で9年間負けなしだった。昨夏のリオデジャネイロ五輪では加藤沢男以来44年ぶり史上4人目の五輪2連覇。世界選手権では11年大会で前人未到の3連覇を成し遂げると、前回15年大会で連続優勝記録を「6」に伸ばした。今季は全日本で10連覇に続いてNHK杯で9連覇を飾り、連勝記録を40としていた。