リオデジャネイロ五輪柔道男子90キロ級金メダルのベイカー茉秋(23=日本中央競馬会)が苦労を乗り越えて再起を果たす。

 9日、東京・多摩市の国士舘大で行われた男子重量級代表の強化合宿に参加。昨年4月の右肩手術から復帰し、乱取り稽古を約2時間行った。回復状況については7~8割ぐらいとするが、リハビリ期間中は「どん底だった」と言う。「車の揺れだけでも痛いし、横になって寝られなかった。ベンチ(プレス)も20キロを持ち上げられず、走るのにも3カ月かかった。本当につらかった時間だった」。

 筋骨隆々の肉体だったが筋力も落ちて、体重は82キロまで減少した。昨年10月末に柔道の稽古を再開したが、稽古相手は母校の千葉・東海大浦安中の中学生だった。徐々に感覚を取り戻していくと高校生、実業団とレベルを上げていった。「五輪が終わり、手術して、今は1からのスタート。はい上がるしかない。挑戦者の気持ちで毎日畳に上がっているし、『逆に手術して良かった』と思っている」と前を向く。

 休養中は自身と向き合う時間が増えて得たものもあった。21歳で夢の「五輪金メダル」をかなえて「(金メダルが)ちょっと早かったかな。1回夢をかなえると、燃え上がるものがなかなかない。そんな中、1度柔道から離れて、改めて『早く柔道がしたい』『柔道が大好き』と気づいた。手術がよい起爆剤になったし、初心を忘れずに柔道をやっていきたい」。

 男子代表の井上康生監督はベイカーについて「充電してきたなという表情で、第一線に戻ってきた喜びを感じているのだと思う。この1年は味わったことのない挫折を味わい、一回り人としても成長出来るでは」とさらなる成長を期待した。