【モスクワ=高場泉穂】SP首位の羽生結弦(23=ANA)が、アクシデントを乗り越えて自身初のGPシリーズ2大会連続優勝を果たした。

午前の練習で4回転ループを跳んだ際に右足首を負傷。ジャンプ構成の難度を下げたフリーで167・89点を出し、合計278・42点でGPでファイナルを含む通算10勝目を挙げた。試合後には医師に3週間の安静が必要と診断されたことを明らかにした。5度目の優勝がかかるGPファイナル(12月6~8日、カナダ・バンクーバー)、全日本選手権出場が危ぶまれる状況となった。

緊張が解けたのか、羽生が思わず涙を流した。試合後のミックスゾーンで迎えてくれたのは親交のあるロシアの名コーチ、タラソワ氏。抱きしめられながら「足は大丈夫? よく頑張ったね」とねぎらわれた。自分の姿を写そうとするカメラをそっと制し、手で涙をぬぐった。自分のスケートのルーツと話すロシアの地で「よく頑張ったではなくて、素晴らしかったよと言ってもらえる演技をしなくてはいけなかった」と悔いた。

本番約6時間前の朝の練習で右足首を負傷した。4回転ループで転倒した際に右足首をひねり「いっちゃったな、と思った」。靱帯(じんたい)まで痛めるけがと認識し、すぐに練習を中止した。患部を冷やし、試合前には痛み止めを服用。けがの原因となった4回転ループは回避し、平昌五輪と同様4回転はサルコー、トーループの2種類で臨んだ。後半でトリプルアクセル(3回転半)で転倒するなどミスがあったが、4回転3本を決め、得点につなげた。

試合前、医師から「今滑ったら悪化するよ」と忠告を受け、それでも強行出場した。それだけこの地で滑る意味があった。今季のフリーは、五輪金メダルを目指すきっかけとなったロシアの“皇帝”ことプルシェンコ氏の代表作「ニジンスキーに捧ぐ」の曲を使用。この日のために、同氏の得意なビールマンスピンも準備していた。「コーチから『全部きれいにやったらやってもいいよ』と言われていたんですが、できなくて残念」。一層悔しさがこみ上げた。

記者会見に松葉づえ姿で現れた羽生は「靱帯の損傷には間違いない。はっきりドクターの指示を言ってしまえば3週間は安静。調整期間まで考えると、全日本も厳しい」と自らの口で語った。右足首の状態をみながら、GPファイナル(12月6日開幕、カナダ・バンクーバー)、世界選手権の代表選考を兼ねた全日本選手権(12月20日開幕)出場を慎重に見極める。