阿部一二三(22=日体大)の妹で女子52キロ級で世界選手権2連覇の阿部詩(19)は決勝で18年世界選手権銅メダルのアマンディーヌ・ブシャール(フランス)に延長の末、優勢で敗れた。きょうだいで笑えず、優勝すれば20年東京オリンピック(五輪)代表に決まる可能性があったが、持ち越しとなった。

東京五輪代表決定はお預け。あと1勝が届かなかった-。優勝を逃した阿部は会場の天井を見上げ、涙が止まらなかった。試合前に兄一二三が優勝を果たし、改めて「覚悟を決めた」が痛恨の敗戦となった。「最後は自分の甘さが出てしまった…。相手の圧を受け、『勝たないと』という気持ちが強くなりすぎた」。

17年世界女王の志々目愛との準決勝までの4試合をオール一本勝ち。万全の状態でブシャールとの決勝に臨んだが、一瞬の隙をつかれた。延長3分40秒。前に出たところを肩車で返され、背中が畳についた。

16年12月のシニアの国際大会デビュー以来、初めて外国選手に黒星を喫した。今春から兄と同じ日体大に進学し、本格的に筋力アップに取り組んだ。ほぼ毎日鍛えて背中や腕はたくましくなり、体脂肪は減量前も10%を切るほどに。海外勢に力負けしないよう、男子とも積極的に組み合った。得意の投げ技だけでなく、弱点だった寝技も強化して武器となった。

8月の世界選手権準決勝で、16年リオデジャネイロ五輪金メダルのケルメンディ(コソボ)を抑え込みで撃破したことも大きな自信につながった。さらに、今大会では優勝した2度の世界選手権に続き、母校夙川学院中高の垣田コーチに練習パートナーを依頼。21日の前日調整でも、90キロの男性を約2時間、豪快に投げ込み、技のタイミングや腰の入りなど微調整した。

高校時代から「異常な強さを誇る怪物になりたい」と言い続けてきた。「人生を懸ける思い」でこの日を迎えたが、夢舞台の切符は持ち越しとなった。「出直して、この悔しい思いが『良かった』と言えるぐらい、さらに強くなりたい」。19歳の勝負師が、“怪物伝説”を作るために再起を誓った。【峯岸佑樹】

◆女子日本代表の増地克之監督のコメント (阿部詩は)勝負の怖さをあらためて知ったと思う。準備はしっかりやってきているから、畳の上で自分を信じていかに出し切れるかということ。渡名喜は最初から最後まで自分の柔道に徹した。