20年ユースオリンピック(五輪)金メダリストでシニア転向1年目の鍵山優真(17=星槎国際高横浜2年)が初優勝した。

新型コロナ禍で変則開催ながら、GPデビュー戦Vは日本男子で初めて。ショートプログラム(SP)87・26点、フリー188・61点ともに1位の合計275・87点で2位の友野一希(22=同大)に49・25点もの大差をつけた。五輪2大会連続出場の父正和コーチ(49)も果たせなかったNHK杯の制覇を息子が遂げた。

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表彰台の頂点に立った鍵山は、じっと金メダルを見つめた。「どちらが表か裏か分からなくて」と天然発言も、見ているうちに「うれしさが出てきた」。日本人だけの変則開催ながら、日本男子初のGPシリーズ初出場初優勝。「自信になる。点数を気にせず、ひたすら演技に集中しようと思っていた」と無心だった。

冒頭の4回転サルコーで驚異の出来栄え点(GOE)4・07点を稼いだ。「マジですか?」と本人も驚く質の高さで勢いに乗り、続く4回転トーループ-3回転トーループも完璧。SPでは失敗したトリプルアクセル(3回転半)も修正して2本とも決めた。スピンも3種すべて最高評価のレベル4でそろえてみせた。

国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、まだ始めて2カ月弱の新プログラム「アバター」で、世界歴代5位相当のフリー188・61点をたたき出した。世界的振付師ローリー・ニコルさんと10月に始め、初披露した11月の東日本選手権では4度も転倒。号泣した課題をつぶすべく練習量を倍増し、15日深夜のリモート指導でジャンプを跳びやすい構成にも変えていた。

「常にチャレンジャーで」。演技前、父の正和コーチから励まされ「最後まで頑張れた」。92年アルベールビル、94年リレハンメル五輪出場。日本初の公式戦4回転ジャンプ成功者は98年の本田武史氏だが「練習で初」は正和氏とされている。父が「94年には練習で4回転トーループに成功していた。サルコーにも取り組んでいた」と言えば、息子は「膝の柔らかさは父譲り」。同じ2種の4回転を武器に、父が勝てなかったNHK杯を制覇。「お父さんのリベンジを果たせたんじゃないかな」と笑った。

夢は「北京五輪に出て勝つこと」だが「今は全日本選手権に集中したい」と12月24日からの長野に照準した。父が91~93年に3連覇した大会だが、壁は、過去ではなく目の前にある。「将来、世界のトップになるためには日本でトップにならないと。(昨年1、2位の)宇野選手、羽生選手と対等に戦えるよう、肩を並べられるよう、練習したい」。約50点差をつけてのGPデビュー戦Vで歴史に名を刻んだが、世界への第1歩に過ぎない。【木下淳】

<鍵山優真アラカルト>

◆生まれ 2003年(平15)5月5日、横浜市。富山や長野・軽井沢をへて中学1年時に再び横浜へ。

◆競技歴 5歳で始め、昨年11月の全日本ジュニア選手権で優勝。今年3月の世界ジュニアは銀メダル。

◆ユース五輪 SPで壁に激突し転倒するアクシデントも、フリーで海外自己ベストとなる166・41点。3位からの逆転「金」で喜び過ぎる姿が話題に。

◆飛躍 昨年末の全日本選手権でジュニアながら宇野昌磨、羽生結弦に次ぐ3位。高校1年では本田武史以来23年ぶり表彰台。今年2月の4大陸選手権(韓国)でも羽生らに次ぐ3位。

◆イラスト 大得意。緊急事態宣言下の4月、インスタグラムに「お絵描き」を投稿。愛するスヌーピーや人気漫画「東京喰種」「7つの大罪」等の模写を披露した。「新型コロナで滑れなくなってから始めた趣味」と短期間で上達した。

○…23日に青森で閉幕した全日本ジュニアを制した男女が、ともに銅メダルを手にした。男子は18歳の本田ルーカス剛史が映画「007」の主人公ボンドになりきり、後半の3回転ルッツ-3回転トーループなどでミスをカバー。「びっくりしている。本当に楽しめた」と喜んだ。女子はSP4位の16歳、松生理乃が「堂々と滑れた」とはつらつとした演技。後半の連続ジャンプも見事で、フリー133・23点は2位。2人とも厳しい連戦で結果を残した。