スポーツ心理学博士の布施努氏(57)は、全国大学ラグビー選手権準優勝の早大の“陰の立役者”としてチームを支えた。メンタルトレーニングで部員を意識改革し、「勝つ思考」を深めた。コロナ禍で実戦機会が激減する中、試行錯誤して着実に成長につなげた。

昨年3月には寮に150冊の本を寄贈した。哲学、小説、経済、漫画などさまざまなジャンルで、各自が好きな本を選んで読んだ。「面白ければ他の部員に理由を説明して渡す」課題を与えた。ラグビーの組織戦術にもつながる、言葉で具体的に発信するアウトプット力を磨くトレーニングの一環だ。布施氏は「ラグビーでは次のプレーをするために、仲間たちへ分かりやすく情報伝達することが非常に重要。インプットして、相手が分かるまで説明することでアウトプット力が高まる」と力説した。

SHとSOのハーフ団ミーティングなどポジションごとでの話し合いの場を設け、映像を見ながら1つ1つのプレーを可視化した。さらに、試合前には「最高目標」と「最低目標」の設定を助言し、対応力を高める工夫を施した。昨年12月の関東対抗戦では明大に完敗したが、例え失敗したとしても、それを立て直すために「仮説」を立て、実行して問題解決につなげた。

布施氏は、早実、慶大で硬式野球部に属し、住友商事を経て心理学の道に進んだ異色の経歴を持つ。早大は天理大に27点差で敗れて大会2連覇を逃したが、就任2年目の“陰の立役者”はこう言った。

「今年は『うさぎと亀』の亀のようなチームだった。まじめにコツコツと積み上げ、それが結果となった。まさに努力の証しだと思う。勝負は勝ち負けあるが、これまでの経験や過程を大切に次のステージに生かしてほしい」

21年1月11日の決勝のためにチームスローガン「BATTLE」(戦闘)を掲げた、137人の丸尾組の戦いが終わった。【峯岸佑樹】