わずかな糸でも…。体操男子で五輪個人総合2連覇の内村航平(32=ジョイカル)が失意に終わった東京五輪後、そして現在の心境を語った。

この日は種目別の鉄棒に出場し、14・133点。冒頭のH難度の離れ技「ブレトシュナイダー」は成功させたが、最後の着地で後方にあおむけに倒れる場面があったが、試合後の表情に暗さはなかった。「体の状態も悪いし、いまいち気持ちも上がらない中で、今日試合をすることができて、ようやくスイッチが入ったというか。うまく世界選手権へ向けてスイッチをいれられた」と来月に北九州市で行われる大会を見据えた。

2カ月前はどん底だった。両肩痛の痛みから、6種目で争う個人総合ではなく、種目別の鉄棒に絞って臨んだ東京五輪。その予選で落下し、予選落ちに終わった。心は揺れ続けた。

「少し、やっぱり、特別に思いすぎていたのかもしれないなと思うんですけど、もう終わったことなので、特にそのへんは考えないようにして。でも、嫌でもよみがえってくるというか。自分の体操人生で一番大きな出来事だったので、それに向かってやっていって結果を残せなかったというのは、本当に何をしてきたんだろうという気持ちはあるんですけど」。

母国で迎えた4度目の舞台。そこで金メダルを取るために、種目を絞る苦渋の決断もしてきた。だからこそ、悔恨は深かった。ただ、時間がたつにつれて、少しずつ捉え方も変わっていった。

「まあ、いいことばかり経験してきたので、そういったことも僕の人生においては必要だったんじゃないかなといまは思っているので。僕の人生においてはかなりしんどいなと思いましたけど、ここで乗り越えてこそ、次への道が開けると思っている」。

成功体験ばかりの連続だった競技人生の終盤に待っていた苦しい時間。それも1つの糧として考え始めている。その中で不変だったものもあった。

「体操に対しての思いは変えないように、気持ちを切らさないように、そこだけは、細い1本でもつなげておきたいというのはあったので。それでつなげてて今日(試合を)やって、ちょっとずつ太くなっている気がするので、またそれを世界選手権へ向けて太くしていき、考えすぎないように、あまり考えすぎないように、シンプルに良い演技をすることだけ考えてやっていきたい」。

五輪から2カ月後の試合。大きなきっかけを得て、3年ぶりの世界一決定戦で「次の道」と追い求めていく。【阿部健吾】