年は変わり22年も1カ月が過ぎたが、再びスポーツ界にとって壁がそびえ立っている。

オミクロン株の流行に伴い、海外からの渡航者の入国停止措置が2月末まで延期され、国内での国際大会開催にも大きな影響が及んでいる。このまま「鎖国」状態を続ければ、スポーツ界の活気も失われていく。果たして、コロナ禍での開催は可能なのか。昨年10月に福岡県北九州市で開催された体操、新体操の世界選手権では、陽性者数を3人に抑え、大会を完走した。「北九州モデル」と称される体制を作り上げた福岡県北九州市の担当者である三浦隆宏氏、感染症対策などを主導した株式会社CBの谷岡弘邦氏に聞いた。【取材・構成=阿部健吾、木下淳】

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2つの競技の世界選手権を連続して開催する。それ自体が体操界では初めての試みだった。日本体操協会から新体操の誘致を打診されたのが20年6月。その後、8月に国際体操連盟(FIG)の幹部が視察に訪れたタイミングで、本来は体操の世界選手権を開く予定だったコペンハーゲンがコロナ禍で辞退したことで、2つの国際大会の検討を依頼された。

 

三浦氏 実際に決まったのは20年の11月。大会まで1年を切っていました。史上初の同時開催で、加えて中止の可能性もある。かなりバタバタで、どういった役割分担で何をすべきかを考え、進めていきました。

 

大会組織委員会の中に「COVID-19対策会議」を設置。感染症の専門医も加え、感染者の推移などを検証していった。最終的に開催を決めたのは9月13日。最初に行われる体操の開幕日10月18日まで、残り1カ月強の時点だった。対策としては、昨夏の東京五輪、パラリンピックを参照例にした。

 

谷岡氏 大規模な国際大会をバブル方式でやったというのは、東京五輪が最大であり、東京五輪の陽性者数の率を見ても成功だったという位置付けをされてますが、成功したバブル対策を参考に、さらに北九州モデルはそこから世界体操にアジャストしつつ、いかに反省点を改善した方式を作れるかを考えて構築したものです。

 

大きく異なったのは、選手村の有無。五輪では地形的にバブルを作りやすかったが、北九州市を包み込むことは不可能。宿泊施設、練習場、大会会場は点在せざるを得なかった。

 

谷岡氏 五輪の方式は他では絶対にできません。ですので、前提条件が違う中で、むしろ1つの大きな指針になるようなものはできたと思っています。日本で1000人を超える来日者を想定する大規模な国際大会を開く上で、ですね。

 

例えば、ホテル。市内に分散するため、各施設での一律の管理が求められた。PCR検査では、国ごとの差ができてはいけない。検査時間などは施設が違えど同じ条件を整える必要があった。担当する人での差を小さくするために、中心となって指示を行う人員の配置なども工夫した。通常時であれば、ホテルにはインフォメーションデスクに2人置けば足りるが、今回は約10人。ホテルから参加者が出ないように巡回する警備員や、検査を回収、整理するスタッフも置いた。基本的にはフロアの貸し切りで、エレベーターが何基もあれば専用を作り、少なければ一般利用者が使用してないのを確認し、人海戦術を敷いた。新体操までを通じて、19の施設に分散させた。

宿泊先からの移動はハイヤーを駆使した。地元のタクシー会社に協力をあおいだ。なるべく国ごとの接触も避けることで、安心安全を追求した。

 

三浦氏 国ごとに専用車を割り当てましたが、初日、2日目は時間になっても来ない、待ちぼうけもありました。ですが、3日後には改善された。その後はスムーズでした。

 

観客側はどうか。入場に関しては2週間前までに2回のワクチンを接種しているか、72時間以内のPCR検査等の陰性証明書があることが必須とした。入場口では滞留による密を避けるために、対応を行った。

身分証明書をチェックする係、接種証明、陰性証明書をチェックする係、最後はチケットをチェックして入っていただくもぎりの係。3段階のチェックを段階的に設置し、滞留が起きないように最大6レーンまで設けた。不備、不明があった場合は時間をかけると滞留を生むため、別ブースに誘導するオペレーションまで作った。

 

谷岡氏 はい、国が進めるワクチン・検査パッケージを導入しました。見に来ている方の安心安全もありますが、アスリートのための対策という面も大きいです。この点は各国の参加者や主催者であるFIGからも良い評価を得ていると思います。

 

三浦氏 北九州市としてはアスリートに感染させないのは一番大切なことだと思ってました。一方で市民の理解をどう得るかというのは、大きな課題ではありました。対策会議で判断する度に会議内容をすべて公表したり、検討状況を伝えたり、通常はここまでやってないと思うんですけど、すべてマスコミを通じて市民に公表いたしました。結果的に安心して見に行けるという声まで上がってきましたので、良かったなと思います。

 

守られていたアスリートからは実際、さまざまな声が届いたという。「安心して大会に臨める」という声とは反対に、「自分たちはさんざん検査も受けて安全なのに、何でここまで厳しくされるんだ」という声も届いた。徒歩での移動範囲を増やせるかをスポーツ庁などと協議し、大会期間中も調整を続けた。

 

三浦氏 どこまでできるのかは毎日協議しながら、かなり悩みながら、やっていました。コロナ禍の中で大規模大会を行うことは、一般の市民と選手、両方を守るためには、いかにまじわらせないかが大事。一方で、世界選手権というかなりストレスがたまる大会に選手が出ているわけですから、その選手たちのストレス解消も合わせて、どういう風に考えていくか大きな大会をやる上での課題かなと。選手のストレス解消法は少しずつ分かってきました。知見のようなもので、他団体に共有できそうなものは、かなりあると思います。

 

知見-。それは原則として外国人の入国停止のいまでも生かせるとする。

 

谷岡氏 世界体操、世界新体操の時には1200人を超える外国人を入れた時も、水際対策で外国人の入国はNGでした。条件はいまと同じです。結局は競技、大会規模に合わせた対策をしっかり作り込めるかどうかが、可能かどうかを分ける差なんです。特例入国を決してできないわけではない。きちんと話をして、認めてもらえばできるんです。

 

三浦氏 正直、当時のデルタ株とオミクロン株の若干の対応の仕方は違うのかなと。ただ、政府の分科会の尾身会長も言われたとおり、株により、合わせた対応が必要になるのかな。クセがわかった中でどういった対応をプラスすればやれるのかというのは、みんなで考えればやれないことはないと思っています。

 

「北九州モデル」の情報は公開されており、他競技、他団体でもアクセスしやすい。競技特性なども考慮した上で、どうすれば開催できるのかを考えていく上での貴重なお手本となるだろう。