「忘れたいオリンピック」にも、確かに価値はある。
冬季オリンピック(五輪)スピードスケートで計3個のメダルを獲得し、昨年4月に引退した高木菜那さん(30)が五輪の価値を言葉にした。11日、都内で行われた北京五輪1周年記念イベント「TEAM JAPAN WINTER FEST」に登壇した。
18年平昌五輪で獲得した金メダル2個と、22年北京五輪で手にした銀メダル1個を首から下げて登場。トークショーでは、メダルの重さに関するクイズを自ら出題するなど、明るく会場を盛り上げた。
金メダルを逃した北京五輪も回想した。連覇を懸けた女子団体パシュート決勝。最終コーナーで転倒し、直後は敗戦の責を背負いこんだ。
「自分の人生をかけて戦いに行った北京五輪だったんですけど、結果としては自分の努力が比例しなかった、悔しい大会になってしまった」
重い言葉を続ける。クイズコーナーで細めていた目は、真剣な瞳へと変わっていた。
「やっぱり金メダルがほしかったし、金メダルを取るために戦いに行っていたけれど、でも金メダルを取ることとは違った重さのオリンピックになったと思う」
五輪後はファンの応援や仲間の励ましに救われた。逃した金メダルと引き換えに、自分を支えてくれる人の尊さを知った。「あのメンバーがいなかったら、自分の足で立てていない」とさえ思う。
高木さんは身ぶり手ぶりを交え、言葉に熱を込めた。
「自分の中では忘れたいオリンピックではあるけれど、それ以上に大切にしないといけないオリンピックだと思いました」
判然と言い切ると、会場の片隅では思わず拍手する人の姿もあった。
高木さんはちょっとだけ硬くなった雰囲気を察してか、すかさず和らげる。
「深い話もできるんですよ~!」
クイズを出す時のように顔をクシャッとさせると、聴衆も温かな笑いに包まれた。
前日に雪を降らせた東京の空から、暖かな陽光が差し込む。
自分の言葉で五輪の価値を伝えようとする高木さんの声に、会場の子どもたちも聞き入っていた。【藤塚大輔】


