女子サーブルの江村美咲(24=立飛ホールディングス)が、男女を通じて日本初の2連覇を成し遂げた。

日本勢の世界選手権Vは15年の男子フルーレ太田雄貴と昨年の自身と1度ずつあったが、決勝でギリシャ選手を破って日本史上初となる2度目の頂点に立った。優勝の瞬間、やり切った表情でひざまずき、マスクを外し髪を整えた。昨年のように涙はない。てっぺんを取りにいって取り、女王の貫禄を見せつけた。

世界ランキング1位で迎えた今大会は予選免除。この日の決勝トーナメント1回戦から登場し、まずウズベキスタン選手を15-9で破った。2回戦で学生時代からのライバル高嶋理紗(24=オリエンタル酵母工業)との日本人対決を15-7、3回戦でポーランド選手に15-5、準々決勝でイタリア選手を15-8と圧倒した。

3位決定戦がないため銅メダル以上は確定していたが、満足などできない。欧州女王のブルネ(フランス)を破って勝ち上がってきたギリシャ選手と対戦した準決勝は大接戦の末、最後は14-14からの一本勝負を制して2大会連続の決勝進出を決め、歓喜の雄たけびを上げた。決勝も、欧州2位のバルゼ(フランス)を破っていたギリシャ選手を15-11で退けた。

日本史上最強の女性剣士だ。21年4月に日本初のプロ宣言。実業団などに就職せず、スポンサー費で強化に集中し、世界を転戦してきた。同年夏の東京オリンピック(五輪)こそ3回戦敗退だったが、大舞台後の燃え尽き症候群から再起し、次々と記録を塗り替えてきた。

昨年は5月のワールドカップ(W杯)でサーブル種目初の頂点。7月の世界選手権では日本の女子個人で史上初、種目としても男女を通じて初の金メダルを獲得した。今年2月には、またも日本女子初の枕ことばが付く世界ランク1位。フランス人のジェローム・コーチの指導でさらに伸び、従来の突進力に柔軟性も兼ね備えた。得意のロングアタックに、ピスト(競技コート)を広く使った戦術も光り、無双状態に入っている。

優勝した1年前の世界選手権。その試合途中から左足の甲を痛めていた。「エックス線検査をしても何も写らない。衝撃波の治療もあまり効かない。休んでも良くならない。練習すれば、やっぱり痛い…」。そんな時期が今年2月まで続き、大会直前の6月には右上腕三頭筋を肉離れ。「フルで練習できるようになったのは今月に入ってから」だった。同月のアジア選手権は調整できず5位と「正直すごく苦しかった」が、今年最大の舞台には意地で間に合わせた。

「本当に五輪だと思って挑みます。ここで勝てない人間が五輪で金メダルを取れるわけがないと自分にプレッシャーをかけて頑張ります」

そう宣言していた通りの世界一を、パリ五輪の1年前に守った。ディフェンディング・チャンピオンの重圧も初めて味わったが「挑戦者」の気持ちを貫いての、不調を乗り越えての勝利。国際フェンシング連盟(FIE)最高峰の大会を2年連続で制し、次の「日本女子初」五輪メダリストの夢へ前進した。来夏、フェンシング発祥国フランスへ。勇躍、金メダルの最有力候補として乗り込む。【木下淳】

◆江村美咲(えむら・みさき)1998年(平10)11月20日、大分市生まれ。父宏二さんは88年ソウル五輪フルーレ代表。08年北京五輪では日本代表監督として太田雄貴を日本初の銀に導く。母孝枝さんもエペの世界選手権代表。小学3年で競技を始め、JOCエリートアカデミー(大原学園高)から中大。16年リオ五輪はバックアップ選手。21年東京五輪は団体5位。W杯とGPのメダル獲得数は7(金1銀3銅3)。21年4月から日本初のプロとして活動。立飛ホールディングスを筆頭に複数社と契約、スポンサー費で競技に専念する。コロナ禍にスポーツフードスペシャリストの資格取得。170センチ。右利き。血液型A。