8~9月に沖縄などで開催されたバスケットボール男子のFIBAワールドカップ(W杯)で、日本代表はアジア最上位となり、自力では48年ぶりとなるオリンピック(2024年パリ五輪)出場を決めた。

熱狂そのままに10月5日にはBリーグが開幕する。

B2では神戸ストークス(旧西宮ストークス)が、兵庫・西宮市から神戸市に本拠地を移して新たに出発。2025年春には神戸の繁華街「三宮」から徒歩圏内の神戸港に、収容人数約1万人の「神戸アリーナ(仮称)」が開業予定だ。このほど神戸ストークスの共同オーナーの1人である川上聡一朗氏(40=光洋商事ホールディングス代表取締役)が、チームに対する熱い思い、新シーズンへの期待を語った。

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1800年以上の歴史を持つ兵庫・西宮市の広田神社。そこからほど近い西宮市立中央体育館で4月21~22日、西宮ストークスは福島ファイヤーボンズを迎えた。

地元での最終戦。川上氏は自身の会社で2連戦の冠スポンサーとなり、ブースターとともに盛り上げた。

「私自身が子どものころからバスケットに育ててもらって、社会人になってから学びが生きていることがあります。『Bリーグを発展させたい』『バスケットボールに寄与したい』と思って関わりはじめました」

自身も西宮在住。2021年から共同オーナーとなり、地元への愛着は強い。最後の2連戦前、あるブースターに「選手のタオルはあるけれど、コーチ、トレーナー、通訳さん…。スタッフのタオルは作れないのですか?」と相談された。

在庫が出た場合には自身の会社で買い取るとチームに約束し、個人名を入れたタオルを迷わず発注した。想定通りに売り切ると、客席で揺れるタオルを見た同い年の森山知広ヘッドコーチ(HC、39)も喜んだ。

「ストークスは良くも悪くも、選手、スタッフ(の陣容)があまり変わらないチームでした。ブースターの方のSNSの投稿を、最初に拾ったのも森山HC。実現してブースターさんも、うれしく思ってくれたと思います。トレーナーの大学時代の恩師が、教え子のタオルができたと喜び、買ってくださいました。私の知らないところにも波及していくことを知って、とてもやりがいを感じました」

ホーム最終戦は敗れたものの、観衆2233人を集め、盛況で幕を下ろした。

そんな西宮から、本拠地は大都市の神戸へと移る。

6社で構成された共同オーナー制度をとるチームにおいて、1人の判断で物事が決まるとは言えない。その上で川上氏は、運営に携わる立場で迷わず言った。

「すごく前向きに捉えています。兵庫県唯一のプロバスケットボールチーム。西宮の物だけにしておくのはもったいない。県庁所在地にあって、もっともっといろいろな人にストークスを好きになってもらいたい。新アリーナという素晴らしい構想があり、生で見ることでスピード、躍動感、パワフルさを見てもらいたいと思います。前進していけば、西宮の方々も歴史を踏まえて、より好きになってくれると思っています」

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始まりは「兵庫ストークス」として誕生した2011年。県鳥であるコウノトリの英語名がチーム名に用いられた。2015年にホームタウンを神戸市から西宮市に移し、チーム名を「西宮ストークス」に変更。地元の甲南大バスケットボール部出身だった川上氏は「スポンサーをしてくれないか」と打診を受けた。本業はファシリティ関連事業。当時のバスケットボール界は無給の練習生もおり、選手を雇用するなど、背後から支えた。

2016年にスタートしたBリーグは規模を拡大。各チームが選手編成の予算などを上げていく流れがあり、2021年、西宮は共同オーナー構想を掲げた。勢いのある若手経営者、上場会社などがチームに集まっていく中「地元を盛り上げませんか」と川上氏も誘いを受けた。本業は3億円だった売り上げが、約10年で14社を買収して60億円にまで拡大していた。チームやバスケットボール界への寄与だけでなく、自社への好影響も考えた。

「中小企業の場合、大手のように目標が1つに決まった時に、全体でガッと動くことが難しい。目標を掲げた後、1人1人がそこに到達するイメージを持ちづらいんです。大事なのは小さな成功体験を重ねることです。社長が現場へと降りて、同じことをする。責任も取る。私たちは中小企業12社が集まり、60億円を形成しています。M&A(企業の合併・買収)で成長してきたので、全然違う会社が一緒になって頑張っている。どこで気持ちを1つにするのかが、結構大変です。でも1人1人に活躍してもらわない限り、うちは会社として強くなれません」

西宮としての昨季最終戦で、スタッフのタオルを売り切った体験もそうだった。自社関係者も多く見守る中、選手とブースターの交流イベントを行った。子どもたちは笑顔であふれた。川上氏はVIP席ではなく、ファンと同じ席でチームを応援する。従業員にとっては、普段は見えにくい社長の素顔がリアルに映る。

「やっぱり会場には週末の非日常、エンターテインメントがあります。子どもが目を輝かせて応援する姿を見て、これほどうれしいものはないです。普段BtoB(企業-企業)の仕事をしていると、最終的にお客さまが喜んでいる姿を見る機会が少ないんですが、自分たちがやったことが直接的に跳ね返ってくる。それが選手のパフォーマンスにつながる。すごくすてきで、やりがいがあります」

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神戸に拠点を移しての再出発。9月21日にチケット一般発売開始となるのが、ワールド記念ホールでのホーム開幕戦を含めた3試合(10月25日=ライジングゼファー福岡戦、28~29日=越谷アルファーズ戦)だ。目標は3試合合計で、観衆1万5000人を掲げる。

2026年からはBリーグが競技成績による昇降格を廃止する改革を施す。新B1は「Bリーグプレミア」として、世界の頂点を目指すレベルへ引き上げる。新B2も「Bリーグワン」として全国に点在し、地域対地域を色濃く演出する。

最大18チームを想定するBプレミア加入の場合、主要3条件は以下の通りだ。

〈1〉売上高12億円以上

〈2〉入場者数平均4000人以上

〈3〉収容人数5000人以上のアリーナ

具体的な数字と向き合い、川上氏は思いを語った。

「将来的なこともありますが、まずは平均観客動員数を最低でもクリアしないとステージに立てない。昨季はグリーンアリーナ神戸で、B2の最多入場者数(2023年4月9日=5443人)を打ち立てました。神戸はお客さまが集まるポテンシャルがある。それを、どう日常に定着させていくのかが大事です」

神戸の会場では敷地面積が広がり、試合をショーとして作り上げられる。バスケット以外のところでも楽しめるイベント、地元企業とコラボレーションしての飲食の充実などプランを持つ。日本代表の活躍によるバスケット界への注目も追い風に、2025年開業の神戸アリーナへ流れをつくる大切なシーズンになる。

「ワールド記念ホールも神戸アリーナも、三宮という中継ポイントがあります。土日の試合に来られた後も、観光や買い物ができる。街からバスケットを見に行く道が出ている。神戸の潜在能力にどうやってフィットしていくか。どれだけ本気になれるか。共同オーナーで手を組み、しっかりと頑張りたいと思います」

世界的な知名度を誇る、港町での挑戦が始まる。【松本航】