体重無差別で争う全日本女子選手権で、瀬川麻優(まや、26=ALSOK)が初優勝を果たした。

4試合を勝ち上がって迎えた8分間の決勝で、前回大会準優勝の児玉ひかる(25=SBC湘南美容クリニック)を相手に指導4の反則勝ちを収めた。同じ172センチながら、体重は自身より10キロ重い児玉を、攻めに攻めた。

昨年は準々決勝で、その児玉に屈して5位。悔しさを張らすべく、昨年の決勝で所属先輩の梅木真美(29=ALSOK)が児玉を下して優勝した際の映像を、徹底的に研究してきた。

狙い通りのリベンジで、一気に女王の座へ上り詰めた。ヒロインインタビューで「今年こそ優勝のチャンスだと思って、前に前に、攻めました」と納得。昨年は優勢な状況から様子を見てしまい、技を丁寧にかけようと意識してしまったことで、児玉に主導権を渡した反省が生きた。今年は「ここで絶対かけてやる!」と技をかけ続け、技ありを奪ってもなお攻め抜いて、指導4つ目=相手の反則負けを誘った。

さらに、応援席に向かって右の拳を突き上げた。

「勇気! 優勝したよ!」

昨年3月に結婚した、同郷北海道の柔道家だった瀬川勇気さん(26)へ。NHKの全国生中継で堂々感謝した。

「本当に愛しているよ~! ありがとう~!」

旧姓の秋場から瀬川になって2度目の皇后杯。「最近よく似てると言われるようになりました」と勇気さんが笑う、そっくりな2人で優勝カップを手に記念撮影し、みんなで笑顔になった。

2人は高校時代から仲が良く、麻優は北海、勇気さんは東海大四(現東海大札幌)というライバル校ながら、愛を育んできた。麻優が環太平洋大、勇気さんが早稲田大と1度は離れたものの、大学の終わりごろ「交際を再開」(勇気さん)し、付き合って3年の記念日だったという昨年3月15日に婚姻届を提出した。

21年に右足首の靱帯(じんたい)断裂などで半年以上の長期離脱を強いられた際は「やめたい」「区切りをつけたい」と心が折れ、引退に傾いていた麻優を、勇気さんが献身的に支えて押し戻した。共通のパワースポットという洞爺湖へドライブし「気持ちの揺れ動きが大きい」という妻は、徐々に、また前を向けるようになった。

柔道と距離を置いた時期もあり、今夏のパリ五輪(オリンピック)も逃したが「1つ、国内のタイトルを取りたい」と燃えていた麻優が、有言実行。勇気さんは「場内インタビューは恥ずかしかったけど、本人の優勝に懸ける思いを分かっていた分、それを成し遂げたこと、ただただ尊敬します」と目を潤ませた。

麻優も「夫に支えてもらって、女子の日本一を争う大会を制覇できた。本当にうれしい」と、今は銀行を辞め、人材派遣会社に勤めながら支援してくれる夫と、喜びを分かち合った。ご褒美は、また洞爺湖に行くことを決めている。

18年と22年の講道館杯で優勝し、グランドスラム(GS)も22年の東京大会と23年のパリ大会で78キロ超級の銀メダル。世界選手権の混合団体戦も2度の金メダルを持つ国内の実力者ではあったが、個人の世界代表には届かなかった麻優が、感涙の夫とともに精進し、国内最高峰のタイトルを奪取。出場6回目にして念願の女子日本一に輝いた。【飯岡大暉】