まるで夢のような逆転劇-。パラリンピックのローイング(旧ボート競技)PR1男子シングルスカルで日本代表に決まった森卓也(49=CHAXパラアスリートチーム)が22日、成田空港に帰国した。

初のパラリンピック出場切符は、予期せぬ形で舞い込んだ。出場権獲得には1位が条件だったアジア・オセアニア大陸予選(韓国)で2位に敗れた。しかし優勝したカザフスタン選手にルール違反があったことが判明。繰り上がりでパリへの扉が開いた。

帰国便の空港に向かうバスの中で吉報に触れ、「最初はどういうことか分からなかった」。敗れた悔しさから前夜は眠れなかった。それだけに切符獲得の事実を把握すると、安堵(あんど)感からか「あっという間に爆睡した。覚めた瞬間、夢だったのではないかと不安になった」と笑った。

もともとは車いす砲丸投げなどの選手で、日本代表として国際大会に出場するなど活躍。しかし東京パラリンピック出場を目指していた20年に練習中に転倒。右肩腱板(けんばん)を手術した。

医師から投てき競技を続けることは難しいと告げられた。それでも、前向きな気持ちを失わなかった。「まだ挑戦をやめたくない」。かつて体験会に参加したことのあるパラローイングは肩への負担が少ないことを知ると、手術した翌日にはインターネットでローイングの機械を購入。「病院に送ってもらい、すぐに練習できるようにした」と振り返る。

どんな状況でもあきらめることなく、挑戦を続けてきた。幸運を呼び込めたのは、その信念を貫いてきたからこそ。パリの水面では「良いこぎをして、出せる力をすべて出しきりたい」。夢の舞台で、全力を尽くす。【奥岡幹浩】