フミよ、精神的支柱となれ-。ラグビー元日本代表の広瀬俊朗氏(37)が15日、都内で行われたイベント後にW杯日本代表SH田中史朗(34=キヤノン)の担う役割の大きさを説いた。

同日に最終回のTBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」では、ラグビーチーム「アストロズ」の浜畑譲役を熱演。役柄同様の厚い人望で15年W杯イングランド大会の躍進を支えた男が、後輩へバトンを託した。都内で調整中の日本代表は、ロシアとのW杯開幕戦(20日、味スタ)に向けた準備を本格化させた。

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4カ月続いたドラマの収録を終えた広瀬氏には新しい景色が見えていた。「女性の方に声をかけられることが明らかに増えた。大体『浜畑』って言われる。ずっとラグビーをやってきたのに(放送から)2日で(知名度で)負けた」。20日開幕のW杯を前に実感するラグビー熱の高まり。ドラマの好演で貢献し、その火をさらに大きくする絶好の好機で、思いを託したい後輩がいた。

「田中史朗という経験がある選手には、支える役割が期待されていると思う。試合に出ようが出まいが、フミが支えてほしい。彼にとって最後のW杯だと思う。裏で支えるという意味でも、期待しています」。演じた浜畑もベテラン。自ら体を張る司令塔で中心選手だったが、成長著しい後輩に定位置を譲ることが増えた。しかし控えの立場でも助言を怠らず、熱い抱擁でライバルを試合に送り出す。全ては勝利を最優先にした行動だった。

その役柄は自身のラグビー人生にも重なる。15年W杯は出場機会なし。それでも悔しさを内に秘め、チームを鼓舞するVTRを作成するなど、仲間のよりどころであり続けた。歴史的勝利を挙げた南アフリカ戦でピッチにいた田中も、かねて「あの人がいたから勝てた部分は、間違いなくある」と言う。現代表のスローガンは「ONE TEAM」。登録31人が結束する難しさを知るからこそ、大切な役割を担う存在として、3学年下の田中を“指名”した。

W杯開幕まで4日。広瀬氏は最後に「浜畑だろうが、広瀬だろうが関係ない」と切り出し、代表に伝えたいことを口にした。「『何のためにやるのか』というのはすごく大事。勝ち負けはコントロールできない。日本開催の喜びを感じて、戦ってほしい。日本にはたくさんの人たちがついているから、大丈夫」。熱い男は、力強い言葉で思いを託した。【松本航】

 

◆ノーサイド・ゲーム 池井戸潤の小説を原作とし、TBS系で7月7日から放送された連続ドラマ。大手自動車メーカー「トキワ自動車」の中堅サラリーマン君嶋隼人(大泉洋)が、ゼネラルマネジャーとして低迷で廃部がささやかれる「アストロズ」を再建。SO浜畑譲(広瀬俊朗)らと徐々に結束を深め、社内外の逆境を跳ね返していく。

 

◆広瀬俊朗◆ ひろせ・としあき。1981年(昭56)10月17日、大阪・吹田市生まれ。5歳で競技を始め北野高、慶大を経て04年から東芝。07年に日本代表入りし、12年から主将。主将は解かれたが、15年W杯代表に選出される。通算28キャップ。15~16年シーズンで現役引退。ポジションはSO、WTB。選手時代は173センチ、81キロ