<柔道:世界選手権>◇12日◇女子48キロ級◇東京・代々木第1体育館

 女子48キロ級に新世界女王が誕生した。初出場の浅見八瑠奈(22=山梨学院大)が前年覇者の福見友子(25)を破って金メダルを獲得した。準決勝で08年北京五輪金メダリストのドゥミトル(ルーマニア)を破るなどオール1本勝ちで決勝進出。福見との決勝も攻撃的姿勢を貫いて指導2つによるポイントを奪って優勢勝ちした。福見連覇なら12年ロンドン五輪選考の大勢は見えていたが、浅見が阻止して48キロ級は戦国時代に突入した。

 主導権は世界女王、福見の手になかった。戦いを支配したのは浅見。足技で福見の姿勢を崩すと、寝技で攻め続ける。3分を過ぎ、福見への2度目の指導で浅見がリードを奪う。最後まで攻防の流れをつかんだまま、新世界女王の座を戴冠した。「こんなところで負けていられないと思った」と大一番を振り返った。

 準決勝で、08年北京五輪で谷亮子を破った金メダリストのドゥミトルから1本勝ち。大会前、女子代表の園田監督は「ドゥミトルも組み手で嫌がる」と浅見の力を認めていた。7月にグランドスラム・モスクワで敗れるまで対外国人の連勝は40を超えた。世界一になれる実力は備わっていた。

 世界を目指した柔道家、父三喜夫さんのDNAを引き継ぐ。父は84年の選抜体重別選手権で優勝したが、国際大会の実績不足で同年ロス五輪出場の夢はかなわなかった。準優勝の松岡義之が出場、そして金メダルを獲得した。「お父さんの階級だけ勝ったのに選ばれなかった。選考会の意味がない」。本人からではなく、祖母の言葉を通じて父の過去を知った。

 新田高時代は監督だった父の厳しい指導を受けた。それでも「高校時代は世界を意識できなかった」という。畳に上がると緊張が止まらなかった。父に相談すると「自分に負けている証拠。世界の代表ならもっとプレッシャーがかかるぞ」と言われた。「それからあまり緊張しなくなった」。部員の1人として童謡ウサギとカメの話も聞いた。「コツコツ努力すれば報われると言われた」。心に刻み、センス抜群ではないが、ゆっくりと成長を続けた。

 福見が連覇すれば12年ロンドン五輪選考レースは大勢が決まっていた。だがこれで混戦に戻った。議員活動で戦線離脱中の谷亮子もいる。「(谷が)戻ってきても、練習量でも負けていないと思う。48キロ級のレベルも今は高いので」と自負を見せた。「私の柔道人生が終わるまでは世界一になったからといって安心できない」。浅見は亀のように堅実に五輪へ歩を進める。【広重竜太郎】