気合の一打で、首位の座を守った。ヤクルト中村悠平捕手(25)が、9回2死三塁からサヨナラ適時打を放った。13年8月13日の中日戦(神宮)で浅尾からマークして以来、自身2年ぶり2度目となるサヨナラ打。負ければ首位陥落の中、一振りで決めた。攻撃だけでなく、先発の館山を巧みにリード。1点を争うゲームで、主役に躍り出た。

 高ぶる気持ちを抑え、中村が打席に入った。9回裏2死三塁。DeNA岡島のカーブに、食らいついた。打球は二塁手のグラブを越え、瞬く間に、グラウンド上にナインが集結した。中村は三遊間でもみくちゃにされ、大量のスポーツドリンクを浴びせられた。「もう執念、気持ちだけで打ちました。最後は自分が決めると、腹をくくりました」とお立ち台で叫び、神宮を沸かした。

 やっと笑えた。昨季まで所属していた相川は、巨人にFA移籍。同じポジションを争っていた先輩の抜けた穴は予想以上に大きかった。「中村で大丈夫か?」という冷ややかな視線に、「いろんな意味でみんなが見ている。今年ダメだったら、やっぱり相川さんが必要だったんだと思われる。それは嫌だ。自分が試される年。中村でダメだったとは思わせたくない」。

 覚悟を決め、今季を迎えた。両リーグの捕手ではただ1人、規定打席に到達する。「まだまだ勉強することばかり」と言いながら、リード面でも先発館山を2回以降は無失点に導いた。

 支えられて今がある。3月上旬、自宅から救急車で病院に運ばれた。幼少期以来となる青魚のアレルギーを発症。高熱、湿疹で「アナフィラキシーショック」と診断された。死に至る恐れもある症状で、自宅では昨年1月に結婚した妻まなみさん(26)が常に看病。食事面でケアを欠かさなかった。遠征時は、トレーナーが同室で就寝。睡眠時に呼吸困難を起こさないように、常に見守ってくれた。

 恩を返すべく、グラウンドでは躍動した。「最下位が決まっている時のマスクとは違う。優勝を争うのはしびれる」。2年連続最下位からの下克上Vへ、残り15試合。燕には、頼もしい扇の要がいる。【栗田尚樹】