ゲーム直前のブルペンに、岸が勝てる投手たるゆえんが詰まっていた。

 調整の序盤から打席に入ってもらい、セットでのカーブ、チェンジアップを徹底的に確認。「良かった」と認めた内角直球の精度も極限まで高めた。その上で、最後にワインドアップで仕上げて試合に入った。普通の投手とは逆の手順を踏んで、走者は出そうとも点は許さない備えを万全にした。中村、メヒアに連打され無死一、二塁となった2回。同じく中村、メヒアに連続本塁打された後の7回。「全体的に浮いてしまった」と辛く自己評価したチェンジアップをしぶとく外角へ集め、後続を断った。

 岸が変わらずにいられたのは、楽天ファンのおかげだ。ブルペンがスタンドに隣接する独特な球場。息をのんで繊細な仕上げを見守り、総立ちで送り出すという、昨年までと同じ雰囲気をつくってくれた。ひな壇のないヒーローインタビュー。振り返って「楽しんで投げた分、いい結果になった。声援、ありがとうございました」と頭を下げた。クリムゾンレッドの中に「岸孝之」のボードを掲げる青いユニホームが交じっていた。寂しくて泣いている人も。敵地となった空間を「多少、やりづらさもあった」と明かした岸。西武の難敵に変わり、楽天の柱に変わった。【宮下敬至】

 ▼楽天が球団史上初の両リーグ20勝一番乗り。開幕27試合目で20勝到達は09年の33試合を抜いて球団最速となり、パ・リーグで27試合目以内に20勝したのは05年ロッテ以来、12年ぶり。これで日曜の楽天は今季6勝0敗で、両リーグで楽天だけが日曜に全勝。楽天は土曜も5勝1敗と強く、土、日曜だけで11勝1敗、貯金10を稼いでいる。