<中日3-2広島>◇15日◇ナゴヤドーム

 またサヨナラ劇場だ!

 落合竜が球団記録にあと1と迫る今季10度目、2戦連続のサヨナラ勝ちで4連勝を決めた。延長10回、落合博満監督(56)から「打たなかったら明日、練習だぞ」と脅し?

 を受けた森野将彦内野手(32)が左翼の頭上を越えるタイムリー。自動車運転免許の更新期限が迫っていて、譲れない休日をバットで確保した。17日からは2・5ゲーム差に迫った巨人を本拠地に迎える。連夜のサヨナラで逆転優勝の“ライセンス”も交付されそうだ。

 森野は祈るような表情で打球を見つめた。延長10回1死一、二塁、広島横山のフォークをとらえた。白球が左翼手の頭上を越えた瞬間、ほっとしたように笑った。今季10度目のサヨナラを決めたのは4番打者。だが、いつもと様子が違った。主役はまず1番近くにいた和田に頭をはたかれた。選手たちに次々と頭を下げた。「すいませんでした!」。最後はベンチの落合監督にもぴしゃりとやられた。

 「それまでが情けなさ過ぎて、申し訳なかった。最後くらい打ちたかった」。

 お立ち台でも笑顔のざんげは続いた。第1打席からすべて得点圏に走者を置いたが、捕邪飛、三邪飛、遊ゴロ併殺、空振り三振…。1人で5アウトをとられ、走者すら進められなかった。5回には落合監督がベンチ内で打撃指導したほどだ。そんな森野に落合監督は「奥の手」を出した。延長10回、打席に向かう前、効果抜群のひと言をささやいたのだ。

 「打たなかったら、明日は練習だぞ」。

 3週続けての6連戦後の休日返上は、主力にとっては過酷。ただ、それ以上に森野には事情があった。「練習は別に出てもいいんですけど、明日は免許の書き換えがあったんです。どうしても、打つしかなかった」。7月28日生まれの森野には誕生日から1カ月後という更新期限が迫っており、今後の日程を考えれば免許試験場に出向けるラストチャンスが16日だった。

 願いが通じたのか、横山にカウント2-0と追い込まれた後、一番あまいフォークがきた。「神様が打たせてくれたんでしょうね」。天に感謝した。ささやいた落合監督は「打たなきゃ、明日練習だって言ったら、よっぽど嫌だったんだろうな。もっと早く打てや。4番だろ!」。と笑って、ギリギリの免許皆伝?

 だ。

 ファンと報道陣を笑わせた後、森野は急に真顔になった。「打つ方は構えなどの問題でもあると思う。でも、次はそんなこと言ってられない相手だから」。不振の理由は姿勢の崩れだと自己分析する。ただ、次は技術を超越した戦いだ。2・5ゲーム差で迎える本拠地巨人戦。とらえるか、離されるか。今季を占う大一番へ、主砲の眼光が鋭くなった。【鈴木忠平】

 [2010年8月16日11時10分

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